通説編第4巻 第6編 戦後の函館の歩み


「函館市史」トップ(総目次)

第1章 敗戦・占領、そして復興へ
第1節 連合国軍の函館進駐
1 占領軍の函館進駐

敗戦直前の有識者の考え

8.15の回想と記憶

アメリカ軍の進駐を前に

進駐軍心得懇談会の開催

連合軍進駐への心構え

函館署の注意事項

アメリカ軍の進駐開始

「教務日誌」にみる状況

アメリカ軍の上陸と駐屯施設

北海道進駐のアメリカ軍兵力

占領行政の開始と土地・建物の接収件数

司令部が置かれた五島軒

将兵の宿舎・函館水産専門学校

「衛生」部隊が入った共愛会館

一時接収のゴルフ場

8件残して接収解除

進駐アメリカ軍のその後

連合軍進駐への心構え   P45−P47

 占領軍などに対する道民の注意すべき事項は、先の新聞報道などと並行して、道内各市町村の町会単位でも、回覧板のような方法で伝達されたと考えられる。なぜなら、同じ20年9月、空知支庁三笠町の幌内鉱連合町内会で、北海道庁名の「連合軍進駐ニ就テ皆様ノ心得」と題する3種類の回覧板が回覧されており(三笠市博物館蔵『昭和二十年度町内会関係綴』)、9月5日付けの記事は、明らかにこの道庁の回覧板と内容が共通しているからである。おそらく三笠町の回覧板も、連合国軍による進駐が始まった本州方面の事情や政府の方針などを参考にしながら、道庁が作成したものであろう。ちなみに8月29日、アメリカ海軍部隊によっていち早く横須賀軍港の占領がおこなわれた神奈川県では、付近の住民に対して「彼等ノ不法行為ヲ誘発セザル様務メテ間隙ヲ見セナイコトガ大切デアル」という趣旨の「住民心得」が準備された(粟屋憲太郎編『資料・日本現代史二』)。
 三笠町の回覧板は、「其ノ一」が「愈々連合国ノ軍隊ガ近ク北海道ニ上陸シテ来ルコトニナリマシタ。吾々道民ハ政府ヨリ示サレタ色々ノ注意スル事柄ヲ正シク守ツテ大国民トシテノ立派ナ態度ヲ見セテヤリマセウ」と述べて、
 一、外国人ニ対シテハ立派ナ日本人トシテノ態度ヲ示シマセウ
 二、根モ葉モナイ「デマ」ニ迷ツテハイケマセン
 三、タトヘ戦ニ敗レタ国民デモ正シク自分ノ身ヲ守ル権利ヲ行フコトガ出来マスカラ暴行ヤ陵辱ヤ掠奪等ニ対シテ之ヲ甘ンジテ受ケナケレバナラナイ等ト思フ誤ツタ考ヘヲ持ツテハイケマセン
といった内容の全11か条の注意事項を列挙している。
 「其ノ二」は、「連合軍進駐ニ就テ皆様ノ心得」と題するもので、全6か条の同じような内容の注意事項が記されている。最後の「其ノ三」は、「皆様!!連合軍ノ進駐ニ就テノ心構ヘハ出来マシタカ」という出だしの文章からも窺われるように、これまでの2度の回覧板の総まとめ的な内容である。そこで、この全文を次に紹介しておこう。

 皆様!!連合軍ノ進駐ニ就テノ心構ヘハ出来マシタカ。前ニオ回シ致シマシタ回覧板ヲヨク御覧ニナツタコトト存ジマスガ、今一度思ヒ出シマシテ、シツカリ自分ノモノニシテ下サイ。
 尚次ノ御注意ヲ申上ゲマス。
一、連合軍ノ進駐以前ニ外国ノ将兵ガボツボツ入ツテ来テオリマスガ、一部ノ方ハ外国ノ兵ヲ物珍ラシサウニ立チ留リ取囲ンデ見テヲツタリ、振リ返ツテ眺メテイタリスル方々ヤ、子供等ガ付纏ツテ歩イタリ致シテヲリマスガ、此等ハ相手ニ厭ナ感ジヲ持タセルバカリデナク誠ニ見苦シク、大国民トシテノ態度デハアリマセン、絶対ニ止メテ下サイ。又子供サンノ躾ニ付テモ充分御注意ヲ願ヒマス。
二、外国ノ将兵ニ対シ視線ヲ合ハシテハイケナイト前ノ回覧板デオ知ラセシテ置キマシタガ、コレハ外国ノ習慣トシテスレ違ツタ際、後ロヲ振リ向イテ視線ヲ合ハスコトハ情交ヲ許シタ証拠ニナルノデスカラ、コノ様ナ場合ハ、絶対何事ガ起キヨウト後ロヲ振リ向カナイ様特ニ御注意下サイ。重ネテ申シテ置キマス。
三、今マデノ事故ハ夜間ニ多ク起キテヲリマス。夜間女ノ方ノ一人歩キハ絶対止メテ下サイ。已ヲ得ズ外出シナケレバナラナイ場合ハ、街燈等ノ灯イテイル明ルイ道筋ヲ選ンデ下サイ。尚燈火ヲ用ヒルコトモ必要デス。
四、夜間道路ニ面シタ御家庭デハ、戸締ヲ厳重ニシテ戴クコトハ勿論デスガ、窓ニハ必ズ「カーテン」ヲ掛ケル様ニシテ下サイ。
五、外出ノ際、短刀、棍棒、「ステッキ」等、武器ニ類スルモノハ外国兵ヲ徒ラニ刺激致シマシテ事故ヲ起ス素因ニナリマスカラ、此等ヲ携帯セヌ様注意ヲ願ヒマス。
六、連合軍ガ進駐スル際、皆様ガ勝手ニ移動シタリスルト非常ニ混雑ヲシテ却ツテ治安上害ガアリマス。連合軍ノ進駐前后ニハ出来ルダケ汽車、電車、「バス」等ニハ乗ラヌ様ニシテ下サイ。
七、今後ノ成行ニ就テハ常ニ町会長、部落会長ヲ通ジ、又ハ皆様ニ直接オ知ラセ致シマス。スベテ当局ノ指示ヲ守ツテ行クコトガ、コノ際オ国ニ尽ス道デアリマス。  以上

 なお、この回覧板には、「◎注意 用済後焼却シテ下サイ」との注意書きも添えられている。
「函館市史」トップ(総目次) | 通説編第4巻第6編目次 | 前へ | 次へ