通説編第4巻 第6編 戦後の函館の歩み |
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第2章 高度経済成長期の函館 需要と市場対応 |
需要と市場対応 P418−P421 函館地区における濡れ珍味加工は長い伝統を有しながらも産業的・産地的な展開が進まなかった理由のひとつにその需要の小ささや市場の狭小性があり、とくにイカ塩辛はその独特の食感・風味あるいは発酵食品としての流通上の制約などからそうした傾向性が強かった。しかし、近年における当該加工分野の成長はそうした濡れ珍味をめぐる市場条件が大きく変化してきていることを物語っている。それは、第一にイカ塩辛における惣菜加工品化の促進とそれによる需要拡大および全国市場化である。このことはイカ塩辛が酒のつまみ・ご飯のおかず・お茶漬けの素などとして家庭内での消費定着が図られていることを示している。その要因となっているのは、低塩化・小容量包装化などによる製品開発、量販店における取扱強化と定番商品化、関東地区における需要増大を起爆剤とした需要の全国拡散化、イカ塩辛加工における大型産地の形成と産地の簇生などである。また、その市場形成を製品面から主導してきたのが大洋産業(タイサン)、桃屋、日魯漁業(現、ニチロ)、紀文、気仙沼産銘柄などのイカ塩辛のヒット製品である。 第二に惣菜加工品的対応と区別されたイカ塩辛の珍味化の促進および塩辛類やあえもの類などから多彩に構成される生鮮珍味の市場形成とその多様な需要基盤の構築である。イカ塩辛の珍味化は基本的に原料イカの等級や製造方法、容器・包装、ネーミングなどによる高級差別化によって展開されているものであり、イカ塩辛製品とあえもの類や漬け物類などの珍味製品との組合せによって生鮮珍味市場の形成が進んでいる。イカ塩辛の場合、高級化・珍味化としての展開の限界性やそれによる単独での市場形成の困難性が指摘され、そうした隘路の打開があえもの類などの生鮮珍味製品との組合せとそれによる製品領域の拡張によって解決されている。また、このような対応によってイカ塩辛の高級化・珍味化の実現も図られているのである。こうした生鮮珍味製品は原料の組合せや調味方法などによってかなり多種多種な構成となっているが、しかしそのなかで単独に市場展開できる製品は極めて限られてくることから展開の仕方も各種製品の組合せによるセット商品としての形態が取られている場合が多い。 そのような市場条件のもとに産地の市場対応が進められているわけであるが、函館地区における市場対応は惣菜加工品市場よりむしろ生鮮珍味市場に傾斜した対応形態が取られてきた。それは 函館における販売形態が従来からの消費地問屋と結び付いたバルク形態による中間財供給や下請け的な加工が相対的に多かったためと思われる。それ以外での販売についても従来までの販路や中央卸売市場の荷受会社に依存した対応がとられており、しかも出荷地域も札幌地区、東北・関東地区、九州地区などにかなり限定されたものとなってきた。こうした函館の対応は、結局のところイカ濡れ珍味市場をめぐる産地間競争において優勢な気仙沼地区の展開に対して劣勢な展開を余儀なくされてきたこと、逆にむしろそれとの競合を回避した対応を選択してきたことの結果とみることもできる。 このようななかで、函館においては生鮮珍味市場に傾斜した対応が図られてきたわけであるが、その根拠となってきたのが催事・物産展市場、みやげ品市場、ギフト・通販市場、高級珍味市場などである。物産展・催事市場は、近年、大きなブームとなってきたデパートやスーパーマーケットなどでの北海道あるいは函館物産(名産)展などによって創出される需要であり、それは当地産の生鮮珍味類にとってのもっとも重要な需要基盤ともなっている。こうした需要は大手層をはじめとしてその売上高の大きな部分を占めているものと思われるが、しかも特徴的なことはそうした物産展やスーパー店頭での販売活動をおこなう催事屋との取引が多いことであり、小規模層ではとくに依存の大きな業者もあり、その存立条件ともなっているからである。 みやげ品市場は、おもに北海道および函館における観光みやげ品の需要であり、最近での観光ブームに伴う観光客の増加とあいまって拡大しているものである。それはまた観光シーズンとも関わって4月から9月頃にかけた季節的な需要を形成している。製品的にはイカの都市・函館のイメージとも結び付いたイカを原料とした生鮮珍味類や北海道みやげの定番商品として定着した松前漬類などでの需要が大きい。とくに近年における松前漬類の生産の伸びは観光みやげ需要の増大に支えられたものである。さらにこうした観光みやげ品の需要形成を担っているのが末端段階での朝市、海鮮市場、各種みやげ物店、旅館・ホテル売店、空港売店などであり、また中間流通段階でのみやげ物問屋である。 ギフト・通販市場は、中元・歳暮などの贈答品需要であり、とくにセット物を中心に年末需要が多くなっている。それにはデパート・スーパーを通じた販売、カタログや郵便小包による通信販売、電話などによる注文販売などがあり、最近では観光リピーター客からの注文販売も増えている。高級珍味市場は、おもに大都市デパートの名店街店舗や珍味販売部門などにおける高級珍味需要に対応したものであり、それは市場的に狭小であるが生鮮珍味の等級向上や企業、産地の地位向上の面で有効性を有している。 これらの需要基盤の構築が函館での生鮮珍味市場への対応を可能にしてきたのであるが、そこで特徴的なことはそれらの需要基盤の多くが函館の地域的要因と深く関わっている点であり、そのことからも函館の濡れ珍味加工業がかなり地域的な特殊条件のもとに成立していることが明らかにされる。 |
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