通説編第4巻 第6編 戦後の函館の歩み


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第2章 高度経済成長期の函館
第3節 函館の産業経済の変貌
3 イカ珍味の加工産地への転換とその特産地形成

スルメから珍味の時代へ

イカ乾燥珍味加工業の沿革

産地間競争と特産地の確立

加工業者の二極化と再編成

市場・流通の変化と販売対応

労働力条件の変質と労働集約型産業の限界

今後の方向性−経営の二極化と地場勢力の後退−

濡れ珍味加工業の沿革

加工業者の多様さと指導的企業

加工の技術革新と新製品開発

需要と市場対応

持続的成長の課題

濡れ珍味加工業の沿革   P413−P415

 函館地区における濡れ珍味加工業は従前からイカ塩辛や松前漬などで知られてきたものの、総じて乾燥珍味加工業に隠れた存在でしかなかったが、昭和50年代に濡れ珍味が珍味加工の新たな領域として台頭してくることで乾燥珍味に比肩すべき業種となってきた。
 濡れ珍味加工の中心をなすイカ塩辛は、本来、家庭において自家加工されてきた惣菜品であるが、その商業的な生産・販売が始まるのは大正年代であり、本格的に加工形成が進められるのは昭和年代に入ってからである。戦前における最大の産地は函館地区であり、地元向けの販売のほかに本州方面にも多く出荷され、一部は遠く朝鮮半島・中国東北部まで送られていた。戦後の昭和20年代においてもスルメと共に函館を代表する産品として活況を極めるが、新興産地・八戸産の低塩塩辛との市場競合に敗退する形で収束していくこととなり、以降は中小の専業加工者によっておもに大都市消費地の製造問屋や小田原地区の塩辛加工業者などに対するバルク出荷(小分けしないで樽や缶によってバラの状態で出荷されるもの)が細々と続けられてきただけであった。

イカ塩辛の製造(「道新旧蔵写真」)
 こうしたイカ塩辛の加工が新たに胎動してくるのは昭和50年代に入ってからであり、その契機となったのが老舗の塩辛メーカー角萬長浜谷商店における躍進であった。それはまさに同社が製品供給してきた「桃屋のイカの塩辛」の大ヒットによってもたらされたものであった。そうした角萬長浜谷商店の快進撃を後追いする方向でもう1社の老舗メーカーの布目において意欲的なイカ塩辛の製品開発など新たな企業展開が進められ、イカ塩辛の珍味化とともに生鮮珍味メーカーとしての地歩が築かれていくことになる。さらに60年代になると竹田食品が新規に創業することで、布目と竹田食品を両軸に濡れ珍味の加工形成が進められていったのである。そうした濡れ珍味加工業の成長と一方における乾燥珍味加工業の停滞化といった状況のもとで乾燥珍味加工業からの新規参入や中小層を中心とした濡れ珍味メーカーの起業化が図られ、さらにイカ塩辛系統以外の松前漬系統や漬物・冷凍食品・その他系統からの加工形成も進み、濡れ珍味における加工業の集積と産地形成が進められていったのである。現在、函館は濡れ珍味の加工において全国最大の産地であり、主力のイカ塩辛においては気仙沼地区と並ぶ主産地となっている。 
 函館における濡れ珍味の生産額は昭和51年の49億4100万円から58年で100億円の大台に、さらに昭和62年で143億5200万円に達し、11年間で実に2.9倍の伸びを呈していた(表2−14)。こうした生産の伸びを支えていたのがイカ塩辛を中心としたイカの「その他の生鮮珍味」、イカ以外のその他の生鮮珍味、佃煮類、ウニ魚卵あえ物類、松前漬類などの製品であった。なかでも主力のイカ塩辛は昭和51年の21億300万円から62年の46億500万円と2.2倍の伸びを、さらにイカの「その他の生鮮珍味」は同じく2億100万円から35億3200万円と17.6倍もの伸びを呈していたのであった。昭和62年の製品別内訳ではイカ塩辛が46億500万円で全体の32.1パーセントを占めてもっとも多く、ついでイカの「その他の生鮮珍味」が35億3200万円(24.6パーセント)と続き、さらにイカ以外のその他の生鮮珍味の24億1100万円(16.8パーセント)、佃煮類の14億9200万円(10.4パーセント)、ウニ魚卵あえ物類の8億800万円(5.6パーセント)、松前漬類の7億2600万円(5.1パーセント)などの順となっていた(前掲『創立三〇周年』)。
表2−14 函館地区における濡れ珍味製品の生産高推移(昭和51〜62年)
a.数量                                                              単位:トン
種類
昭和51
52
53
54
55
56
57
58
59
60
61
62
イカ製品 イカ塩辛
その他の生珍味
3,787
174
2,855
183
4,136
441
3,940
276
3378
260
3,922
1,029
3,637
718
4,675
1,264
4,567
1,892
4,926
2,535
5,134
3,170
5,371
2,622
小計
3,961
3,038
4,577
4,216
3,638
4,951
4,355
5,939
6,459
7,461
8,304
7,993
その他製品 松前漬類
ウニ魚卵あえもの類
粕漬、麹漬、酢漬、味噌漬等
佃煮類
昆布・ワカメ等の生珍味
その他の生鮮珍味
377
138
19
1,031

1,087
385
175
193
1,266

659
542
284
152
1,911

279
758
358
66
1,884

574
643
314
733
2,208
156
240
588
340
244
2,041
152
601
674
583
134
2,008
333
2,402
493
257
80
1,758
405
1,201
537
577
276
2,149
317
1,003
798
429
505
1,382
487
1,561
858
399
402
1,762
173
1,591
636
714
341
2,189
171
1,774
小計
2,652
2,678
3,168
3,640
4,294
3,966
6,134
4,194
4,859
5,162
5,185
5,825
合計
6,971
5,716
7,745
7,856
7,932
8,917
10,489
10,133
11,318
12,623
13,489
13,818

b.金額                                                                       単位:百万円
種類
昭和51
52
53
54
55
56
57
58
59
60
61
62
イカ製品 イカ塩辛
その他の生珍味
2,103
201
2,547
258
2,979
427
3,127
366
2,618
204
2,901
1,326
3,253
773
4,030
1,515
3,843
2,070
4,391
3,370
4,349
3,793
4,605
3,532
小計
2,304
2,805
3,406
3,493
2,822
4,227
4,026
5,545
5,913
7,761
8,142
8,137
その他製品 松前漬類
ウニ魚卵あえもの類
粕漬、麹漬、酢漬、味噌漬等
佃煮類
昆布・ワカメ等の生珍味
その他の生鮮珍味
348
202
16
1,064

1,007
364
214
272
1,302

770
567
404
128
1,885

400
861
528
81
1,797

757
649
412
713
1,872
231
341
755
457
460
1,346
285
977
668
777
204
1,532
505
1,925
659
393
146
1,284
552
1,338
674
725
422
1,733
441
1,038
892
552
573
1,022
556
1,551
930
484
451
1,299
315
1,802
726
808
499
1,492
279
2,411
小計
2,637
2,922
3,384
4,024
4,218
4,280
5,611
4,372
5,033
5,146
5,281
6,215
合計
4,941
5,727
6,790
7,517
7,040
8,507
9,637
9,917
10,946
12,907
13,423
14,352
函館特産食品工業協同組合『創立30周年』より作成
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