通説編第4巻 第6編 戦後の函館の歩み


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第2章 高度経済成長期の函館
第3節 函館の産業経済の変貌
3 イカ珍味の加工産地への転換とその特産地形成

スルメから珍味の時代へ

イカ乾燥珍味加工業の沿革

産地間競争と特産地の確立

加工業者の二極化と再編成

市場・流通の変化と販売対応

労働力条件の変質と労働集約型産業の限界

今後の方向性−経営の二極化と地場勢力の後退−

濡れ珍味加工業の沿革

加工業者の多様さと指導的企業

加工の技術革新と新製品開発

需要と市場対応

持続的成長の課題

市場・流通の変化と販売対応   P410−P411

 イカ乾燥珍味製品の販売・出荷をめぐる市場や流通の条件は昭和50年代を境として大きく変化している。市場をめぐる変化は成長から成熟・衰退への移行として現れていた。そのなかで市場の成長をリードしてきたさきイカも昭和50年代前半にピークを迎え、急速に衰退に向かっていた。そうした市場における変調の理由は、競合商品(乾燥珍味、つまみ、スナック菓子など)の多種多様な供給と大量流通によるイカ乾燥珍味製品の競争力の劣化と市場性の低下、 高価格化による消費後退、珍味化に伴う商品コンセプトの不明瞭化、卸売段階における主力担当勢力であった中小流通業者の淘汰・衰退および当該製品分野からの撤退による取扱能力の減退、小売段階における従来担当勢力の減少・後退に伴う販売力の低下などであった。
 さらに流通をめぐる変化はとくに流通構造における再編として現出している。それは、第一に小売段階において従来勢力としての食料品店、酒屋などの後退に対する新規勢力としての量販店、コンビニエンス・ストアなどの台頭といった担当勢力の交代をベースとした末端流通の変化として現れている。第二に卸売段階においては有力な大手問屋層の台頭・集約化に対する中小問屋、中央卸売市場卸売会社、小袋詰業者、業務用問屋、地方問屋など中小・零細層の勢力後退といった流通再編の進展として現れている。前者の大手層は、小売流通の新興勢力である量販店、コンビニエンス・ストアとの対応強化と加工能力(製造・包装)の拡充やデリバリー機能(物流・配送)の充実などによって全国的・広域的な流通展開を実現することで近年急速な成長を遂げているものである。後者の中小・零細層は従来まで当該卸売流通において大きなウェイトを占めてきたものであるが、大手層との劣勢な競争と依拠する従来型の小売勢力や需要分野の衰弱化によってその活動領域の縮小と勢力の大幅後退を余儀なくされているものである。当然として卸売におけるシェアもかなり変動しており、大手層は当該製品市場の収縮にも拘わらず総体として絶対量・シェアとも確実に伸長させているのに対して中小・零細層は大幅な落ち込みを呈している。
 こうした市場や流通の変化は函館の企業における販売・出荷形態や販売先との取引関係の変化として現れてきている。それはとくに従来まで主力となってきた大袋詰め出荷に対する小袋詰め出荷の増加として示される。小袋詰めは従来まで消費地問屋サイドに対する加工業者の主体性の確保や付加価値向上の方策として位置付けられてきたものであるが、しかし近年増加しているのはそうした従来までのものと異なった消費地問屋サイドからの要請に基づいた下請け的な性格を持った小袋詰めである。それは自社ブランドと販売相手先ブランドをめぐる変化として現れており、形勢として相手先ブランドの比率が高まる傾向にあり、とくに企業規模が大きくなるほど他社ブランド比率も高くなっている。逆に規模が小さくなるほど自社ブランド比率が高く、相手先ブランドの比率が低くなっている。これらの傾向性はむしろ小袋詰めにおける企業間の対応力格差として現出している。
 このような販売先相手の要請あるいは相手先ブランドによる小袋詰めの実施といった対応は一面においてこれまで取引関係を通じて構築されてきた産地加工業者と消費地流通業者との分業システムの見直しを迫るものとなっている。それは小袋詰めの工程がこれまでおもに消費地段階で担われてきたものであったからであり、その意味においては産地における小袋詰めの増加は消費地工程の産地への移管・転嫁といった性格を要しているのである。今後、小袋詰めの対応が函館の加工業者の存立において重要な要素となっていくものと思われるが、中小層の企業にとっては新規の設備投資の必要性や労働力確保などの課題も多く難しい選択を迫られているといってもよい。
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