通説編第3巻 第5編 「大函館」その光と影


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第2章 20万都市への飛躍とその現実

第7節 都市の生活と新しい文化

4 社会問題・社会事業
2 関東大震災と函館

避難者の来道

避難者の救護

「震災救護概況」

「風評」

社会的影響

経済的影響

避難者の来道   P803−P805

 大正12(1923)年9月1日、午前11時58分、関東地方南部を大地震が襲った。地震の激しさは、小田原方面でもっとも強烈であったとされるが、建物、人口の密集する大都市、東京、横浜での被害がもっとも大きなものであった。地震による破壊に、火災が加わって、大変な大被害となったのである。震災による被害は、死者9万9331人、負傷者10万3733人、行方不明4万3476人、全壊家屋12万8266戸、半壊家屋12万6233戸、焼失家屋44万7128戸、流失家屋868戸、罹災者総数は340万人にのぼるものであった(今村明恒「関東大地震調査報告」大正14年、『国史大辞典』所引)。
 9月1日、午後0時3分には、函館でも「珍しい強震」があり、戸外へ飛び出す人々がいて一時は大騒ぎという様子であったが、人体に感じる地震は4分間ほどで終り被害がでるほどではなかった。
 しかし、この1日夜には、「東京方面大地震」のニュースが函館へも伝えられた。「函館毎日新聞号外」(9月1日土曜日付)は、東京方面の大地震で、東北、常盤、高崎線の列車が転覆、多数の死傷者が出たらしい、利根川の鉄橋は墜落し、福島以南へは電信、電話が不通となっているという内容で、まだ震災の詳報というほどのものではなかった。本文中に、「詳細後報(午後八時)」とあるので、夜8時までに伝えられた情報を号外としたものと思われる。2日以後は、函館の新聞各紙とも「帝都を中心に各都市阿鼻叫喚の巷となる」様子を伝える。なかなか正確な詳報は得られなかったようであるが、青森や福島、仙台、宇都宮などから伝えられる電信、電話による情報で紙面を作成していた。
 3日、午後になると入港する連絡船から東京から脱出して来た人々が降りてくる。3日夜、帰函した市内酒問屋の斉藤氏は、商用で横浜に滞在中に震災にあい、瓦礫や猛火の中、死体の山を越え横浜、東京から脱出、徒歩、野宿で、やっと川口まで逃れて函館に向かうことができた。この体験談記事も震災の惨酷をよく伝えた。
 4日以降、連絡船は各便とも100〜300人もの避難民を運んでくるようになるし、連絡船以外の便船も避難民を乗せて入港してくる。9月24日のまとめでは、避難民の函館への上陸状況は、次のとおりであった。
 避難者便乗の船舶68隻(連絡船64隻、社外船2隻、軍艦1隻…合計の数字が合わないが「函毎」の記事のとおり)、乗客避難者1万772人(うち本道人5439人、他府県人5333人)、避難民の行先は、函館2611人、札幌1451人、小樽1345人、旭川480人、樺太133人が主なところであった(9月26日付「函毎」)。
 また、9月4日から29日までのまとめとして、次のような来道避難者の数字がある。総数1万1375人、避難先別では、函館市2892人、札幌市1715人、小樽市1479人、旭川市638人、室蘭市158人、釧路市293人。鉄道運輸事務所別では、函館管内3609人、札幌管内4269人、旭川管内1142人、室蘭管内763人、野付牛管内496人、釧路管内672人、稚内管内236人、樺太157人、その他22人(この管内別避難者数の合計は1万1366人となるので、最初にあげている総数と一致しないが「函新」記事のとおりにあげた)。なおこの記事では、鉄道の無賃輸送は、9月30日で中止になるので、10月1、2日の函館着くらいまでは、ややまとまった避難者がくるだろうが、それ以後は、あまり来なくなると思われるとしている(9月30日付「函新」)。
 10月のはじめには、函館を避難先として来た人々のうち1000人ほどは、東京方面へもどっている。残りの2000人ほどの人々は、このまま函館に居つくことになるであろうとの見通しが書かれ(10月3日付「函毎」)、11月15日現在の調査で、函館在留の避難者は398世帯、2万188人であった(12月1日付「函新」)。
 列車や汽船で「東京を去ったもの」は9月13日までで103万9827人、列車の運転状況がよくなってくれば、一層多くの人々が東京を出て行くだろうというニュースもあったから(9月17日付「函新」)、函館あるいは北海道へ避難して来た人数は、避難者全体の中でみれば、極く限られた一部分だったことは知られるが、東京方面からみれば、最遠隔地にあたる北海道でも、前述のような数値になるまとまった避難者を迎え、その多くは、函館を経由して行くのであるから函館においての避難者への救護策などは、注意すべきものであった。
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