通説編第4巻 第6編 戦後の函館の歩み


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第2章 高度経済成長期の函館
第3節 函館の産業経済の変貌
3 イカ珍味の加工産地への転換とその特産地形成

スルメから珍味の時代へ

イカ乾燥珍味加工業の沿革

産地間競争と特産地の確立

加工業者の二極化と再編成

市場・流通の変化と販売対応

労働力条件の変質と労働集約型産業の限界

今後の方向性−経営の二極化と地場勢力の後退−

濡れ珍味加工業の沿革

加工業者の多様さと指導的企業

加工の技術革新と新製品開発

需要と市場対応

持続的成長の課題

イカ乾燥珍味加工業の沿革   P402−P406

 函館地区におけるイカ乾燥珍味加工業はおもに昭和30年代を創成期として形成が図られたが、その原動力となったのはイカ燻製や輪イカなどの製品であった。
 なかでもイカ燻製は昭和25年に市内の山一食品によって開発され、「いかくんせい肉の製法特許を柳迫勇氏が習得し、昭和三十三年組合設立を機に函館市に寄贈され、いかくんせい業者の利用に供された」ものであったが(函館特産食品工業協同組合『創立三〇周年』)、酒のつまみやおやつとして「甘い・柔かい・水気がある・歯切れの良い」などの製品造りが支持されることで30年代におけるヒット商品となった。イカ燻製の出荷額はピークとなった昭和38年で21億7900万円に達していた(図2−24)。
 しかし、イカ燻製は昭和38年を境に急速に減少していった。その原因は保存期間が短いことから返品の頻発や梅雨時の売上減少などの問題を多発させていたこと、イカ燻製に代わるソフトさきイカや電化(姿)焼などの新製品が登場してきたことなどであった。
 こうしたイカ燻製などの加工形成を背景として新規参入などによって加工業者数も大きく増加し、30年代なかばで50数軒を数えるに至っていた。また、そのなかで冷凍イカを使用した通年操業やそれに伴う専業経営が促進されていったのである。そうした珍味加工業者・36社によって昭和33年に函館特産食品工業協同組合が設立されている(同前)。
 さらに40年代に入るとソフトさきイカのブームが起こり、乾燥珍味加工業はこのソフトさきイカの生産増大に主導される方向で急成長を遂げていったのである。この製品は昭和38年に豊山食品によって製品開発されたもので、それまでのスルメを原料としたさきイカに対し生イカを原料としたソフトタイプのさきイカであった。45年頃からはソフトさきイカ向けのダルマ(切り裂く前のさきイカの半製品)の生産も増加してくることになり、専業加工業者の形成も進められていった。さらに40年代末からはスルメイカからムラサキイカへの原料転換も進み、さきイカとダルマを中心に高水準な生産が50年代前半まで続いていったのである。加工業者も40、41年のさきイカ加工への参入ラッシュを反映して42年に、特産組合加盟で67社、それに未加盟の約40社を加え100社をこえるものとなっていた。しかし、昭和43年の本州販売先の倒産に伴う8社の廃業、46年の原料高騰およびドルショックによる7社の倒産、54年の地元老舗商店の倒産に伴う3社の倒産、さらにサッカリンの使用禁止・排水規制の強化などへの対応といったなかで、加工業者の整理・淘汰も進み、特産組合の加盟社数は50年代なかばには38社まで減っていた(同前)。

イカ薫製工場(「道新旧蔵写真」)
 成長を遂げてきたイカ乾燥珍味加工業は昭和50年代なかばから停滞色を強めさせていく。その契機となったのが主力製品のさきイカおよびダルマにおける行き詰まりであった。それはさきイカ市場における需要減退とその一方での過剰供給とによって、また増加傾向にあった韓国産輸入ダルマとの競合によってもたらされたものであった。それに伴ってさきイカの出荷(特産組合加盟分)はそれまでの4000トンないし5000トン台から3000トン台前半まで減少し、ダルマ(同)も生産のピークとなった昭和53年の1650トンから56年に790トン、58年に55トンにと大幅減産をたどっていた。ダルマの減産はおもに大手ダルマ加工業者の倒産によってもたらされたものであった。そうした主力製品の減産は新製品の「函館こがね」や「イカ燻製」、「くんさき」、「イカの耳足製品」、「その他製品」などの製品により補填されることで全体として減少から横這いで維持されていた。函館こがねは昭和49年に開発されたヒット商品で、その開発者はソフトさきイカの開発者である豊山食品であった。この製品の製造は特産組合加盟の企業に開放され、まさに函館特産品として売り出されてきたものである。なお、昭和末期における加工業者数は約30社であった。
 乾燥珍味の生産額は昭和40年代に入るとハイペースな増加をたどり、40年代後半に100億円台、さらに50年代初頭に200億円の大台に乗せ、ピークとなった昭和53年では258億円に達していた(表2−13)。以後、漸減傾向をたどるが、50年代末から再び増勢に転じ、昭和62年は232億円であった。しかし、生産の主体となるイカ製品類だけでみるならば50年代末からほぼ180億円台で横這い傾向にあった。製品別では、主力製品となってきたソフトさきイカ、イカ燻製、ダルマなどが減少傾向にあるのに対し函館こがね、耳足製品、その他製品、するめさきイカなどが増加傾向にある。主力のソフトさきイカは昭和40年代から高水準な生産を続けてきたが、ピークとなった昭和54年の123億4200万円から昭和62年には68億6700万円と半分近くまで減少させていた。同様にイカ燻製もピークの54年の57億400万円から昭和62年に18億6300万円と3分の1まで減少させていた。他方、函館こがねは加工の本格化した昭和53年の6億3600万円から昭和62年の18億6300万円と3倍に増加させている。同様にその他の乾燥珍味製品は年次変動を繰り返しながらも増加傾向にあり、昭和62年で20億8100万円にのぼっていた。また、耳足製品は20億円台をほぼ維持し、比較的安定した生産をあげていた。こうした結果から製品の構成もソフトさきイカ(ダルマ)およびイカ燻製の主力2製品をメインとした組み合わせからソフトさきイカを中心としながらもイカ燻製、函館こがね、耳足製品、するめさきイカ、その他イカ製品などを多様に組み合わせたものに大きくシフトしている(前掲『創立三〇周年』)。
表2−13 函館地区における乾燥珍味製品の生産高推移(昭和53年〜62年)
a.数量                                                      単位:トン
種類
53
54
55
56
57
58
59
60
61
62
イカ製品 ソフトさきイカ
函館こがね
イカ燻製
くんさき
輪イカ
電化(姿)焼
イカの耳足製品
スルメさきイカ
ダルマ
スルメ及び素干耳足
その他の乾燥珍味
その他
4,450
226
2,743

9
111
2,021
91
1,650
190
454
5,041
208
2,794

4
13
1,573
10
934
31
917
3,826
231
2,514
846
3
16
1,620
30
1,065
361
970
3,574
466
2,958
803
0
40
1,668
0
790
109
1,189
3,179
435
1,660
682
1
10
1,326

431
116
877
3,384
460
1,582
571
19
116
1,319
21
55
33
1,870
3,470
562
1,658
518
1
91
1,386
145
45
99
963
3,261
743
1,349
391
0
126
1,642
64
104
269
661
3,062
846
1,162
322

121
1,449
565
97
494
1,211
3,212
760
1,259
296

197
1,612
550
259
206
1,264
小計
11,945
11,525
11,482
11,597
8,717
9,430
8,938
8,610
9,331
9,615
その他製品 たこ製品(調味)
たら製品(調味)
たら製品(棒干、スキミ等)
その他の乾燥珍味
その他
116
381
163
279
66
111
389

523
92
345
50
509
84
275
34
558
90
554
66
562
49
533
110
569
62
682
53
522
43
611
98
774
136
497
52
862
375
575
46
1,794
小計
1,005
1,023
996
951
1,272
1,261
1,319
1,526
1,547
2,790
合計  
12,950
12,548
12,478
12,548
9,989
10,691
10,257
10,136
10,878
12,405

b.金額                                                     単位:百万円
種類
53
54
55
56
57
58
59
60
61
62
イカ製品 ソフトさきイカ
函館こがね
イカ燻製
くんさき
輪イカ
電化(姿)焼
イカの耳足製品
スルメさきイカ
ダルマ
スルメ及び素干耳足
その他の乾燥珍味
その他
10,510
636
5,647

19
260
2,652
272
2,694
189
689
10,510
636
5,647

19
260
2,652
272
2,694
189
689
9,284
598
4,431
1,908
7
39
2,153
70
1,673
306
1,300
7,051
1,193
4,497
1,818
1
75
2,052
0
1,253
116
1,505
8,073
1,271
2,939
1,589
4
28
2,016

851
167
997
8,037
1,270
2,440
1,178
31
251
1,963
50
99
65
1,640
8,536
1,497
2,731
1,134
2
214
2,087
287
82
171
1,412
8,160
1,926
2,436
867
0
271
2,657
150
184
309
1,013
7,706
2,154
1,940
675

282
2,235
1,220
170
798
1,755
6,867
1,811
1,863
594

365
2,505
1,157
385
290
2,081
小計
23,568
23,458
21,769
19,561
17,935
17,024
18,153
17,973
18,935
17,918
その他製品 たこ製品(調味)
たら製品(調味)
たら製品(棒干、スキミ等)
その他の乾燥珍味
その他
326
441
224
988
290
320
503

1,115
280
428
65
1,160
265
306
35
1,334
287
550
30
2,072
161
530
131
2,204
233
774
67
2,039
149
671
122
1,992
290
531
71
2,253
532
686
51
4,031
小計
2,269
1,939
1,933
1,940
2,939
3,026
3,113
2,934
3,145
5,300
合計
25,837
25,397
23,702
21,501
20,874
20,050
21,266
20,907
22,080
23,218
函館特産食品工業協同組合『創立30周年』より作成
注)事実がないものは「−」、単位に満たないものは「0」
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