通説編第4巻 第6編 戦後の函館の歩み


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第2章 高度経済成長期の函館
第3節 函館の産業経済の変貌
3 イカ珍味の加工産地への転換とその特産地形成

スルメから珍味の時代へ

イカ乾燥珍味加工業の沿革

産地間競争と特産地の確立

加工業者の二極化と再編成

市場・流通の変化と販売対応

労働力条件の変質と労働集約型産業の限界

今後の方向性−経営の二極化と地場勢力の後退−

濡れ珍味加工業の沿革

加工業者の多様さと指導的企業

加工の技術革新と新製品開発

需要と市場対応

持続的成長の課題

加工の技術革新と新製品開発   P417−P418

 イカ濡れ珍味加工業の成長においては、加工技術の革新や新製品開発の寄与が大きい。それは、第一にイカ塩辛加工における製法転換である。函館地区におけるイカ塩辛加工は従来まで発酵・熟成による伝統的製法でおこなわれてきたが、近年では調味料・添加物を使用した促成製法が主流となりつつあり、それが当該加工業の発展の技術的な要件ともなってきたからである。つまり、新製法は従来製法に比べて加工の簡易・短縮化、また量産対応や新製品開発などの面で多くの可能性を含むものであったからである。まさに減塩、甘口、チルド・タイプなどの新タイプの塩辛製品も促成製法と関わって開発されてきたものにほかならない。また、こうした製法が加工の容易さの面から中小層における起業化などの新規参入を促してきたとみることもできる。さらにこの製法による加工はイカ塩辛製品以外の松前漬類や生鮮珍味類などでもおこなわれており、それら製品分野の成長要因ともなっている。
 さらに促成製法のキー・ポイントは調味料や添加物のブレンド溶液の使用にあるが、そうした調味ブレンドについては大手層の場合、自社でブレンドしたものを使用しているのに対して中小層の大半では添加物問屋から購入したブレンド品が使用されており、そこでの添加物問屋の関わりに注目される。それは調味ブレンドの開発と普及が添加物問屋サイドから推進されてきたものであり、そこでの販促活動が結果として加工業者の掘り起こしや当該加工におけるオルグナイザー(組織者)ともなってきたと評価されるからである。添加物問屋はそうした調味ブレンドの販売にとどまらず、原材料・包装資材の供給、技術・経営の指導、販売支援、情報提供など、とくに中小加工業者と深くかかわった積極的な対応をとっており、当該加工業の重要な背景となっている。
 第二は、新製品開発の進捗である。イカ塩辛関係では促成製法による加工の普及により近年活発な製品開発が進められてきた。そこでの傾向性としては 低塩製品(塩分率5ないし8パーセント)が主流となっており、とくに5、6パーセントの製品が増えていること、ゴロ(イカの内臓、腑とも称する)の比率を低く押さえ(平均4パーセント前後)、調味料や甘味料で味付け・調整した甘口タイプの製品が増えていること、早造り・若造りなどの促成で、チルド・タイプの製品が増えていること、キムチ風味などの新タイプの製品が出回ってきていること、製品化が原料、製法、容器、充填重量 、調味法などによって多様に進められていることなどが指摘される。
 こうした低塩化、甘口化、促成・チルド化などの製品性向は当該製品においてそのソフト化が大きく進行していることを物語っている。同時にそうした製品のソフト化が当該製品の性格を大きく変化させていることに注目される。それがイカ濡れ珍味製品に対して保存性食品から半生鮮性食品への転化をもたらしているからである。つまり昨今における塩辛製品は常温での流通・保存を困難にし、低温物流の支援を不可欠としているからである。しかし、そのことが当該製品のライフサイクルを短縮化させることでその製品回転率を高めさせ、市場拡大を内発させたとみることもできる。
 イカ塩辛以外の生鮮珍味類の製品開発についてはすでにイカ塩辛製品の生鮮珍味市場への対応をベースとしながらその外延上に展開されてきたものであり、そこからは加工や原料の条件に育まれながら多種多様な製品が生まれている。つまり、その加工が高級感、もしくは珍味性に富んだ原料を組み合わせて、調味料などで味付けするというそれほど複雑で高次な技術を要しないこと、また原料も輸入物を中心にかなり容易に入手できることなどが指摘できるのである。
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