通説編第3巻 第5編 「大函館」その光と影


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第2章 20万都市への飛躍とその現実

第6節 民衆に浸透する教育

1 大正デモクラシーと教育

1 初等教育

増大する就学児童数

続く二部教授と授業料徴収

大正新教育の実践

教員研修の組織化

二部教授の調査研究と実施

二部教授への批判

二部教授廃止建言書

建言書と区会

尋常夜学校の新設

児童転送の問題

教員の実況

建言書と区会   P644−P645

 この建言書は、大正7年11月17日の区会でも取り上げられている。議員佐々木平次郎の質問に助役と区長が答えたものであるが、関係者の主張がはっきりと表れている。
 先ず末永助役の答弁は、二部教授そのものの評価について、「ヤラナイ方ガ勿論宜シイノテ御坐イマス」としながら「全国ニ於テモ都市ノ関係財政ノ関係カラシテ二部教授ヲドウシテモヤラナケレハナラヌ様ナコトニナツテ」いると、東京をはじめ横浜、神戸、名古屋などでも実施していることを指摘する。その通りである。本来単級学校の多い村落などに実施することを予定していたものが、人口の密集する大都市で盛んになっていたのである。函館もその例に属する。末永助役は編制の理由づけを「官庁ノ許可ヲ受ケテヤツテイルノテ区ガ勝手ニヤツテ居ルノテハナク政府ノ方針ニ基イテヤツテ居ルノテ御坐イマス」と、あくまでも行政の枠内に止まる答えに終始している。同じ趣旨の答弁はさらに続く。「官庁ガ許可シテイル以上ソンナニ害ノナイト云フコトハ信シテ居ルノテアリマス」と、保護者側の指摘する弊害はまったく考慮の中にない。「健康ニ付テモ一部ノ人々カ言フ様ニ非常ナル程度ニ害サレテイルトハ認メテ居リマセヌ」「区ノ財政ノ関係ヨリ不得已ヤツテ居ルノテ御坐イマシテ来年以後ハ相当ノ計画ヲ樹テテ之ニ応スル見込テ目下調査中」であることを理由に、現状容認に傾く答弁に終始する。
 区長の答弁はより激しいものになっている。建言書について「無遠慮ニ言ヘハ徒ラニ非難攻撃ノ文句計リテアリマス」と評したうえで、「学者ノ説ニモ二部教授ハ決シテ害ハアルトハ云ハヌ」「現今ノ状況ハ生徒ノ増加ヨリ不得已一二年生ハ各都市トモヤツテ居ル所デモアリ」「文部省テモ財政至難ノ場合ヲ顧ミレハ一二年生ハ已ヲ得ナイタロウ配合ヲ宜クヤレハ宜イヂヤナイカト云フコトテ今日マテヤツテ来タノテアリマス」と全国に通じる二部教授編制の理由を挙げ、区内の事情に及んでいる。「先達ノ協議会ニ於テ東部ニ地所モアルコト故公債ヲ起シテマテモ建テタラドウカト云フコトヲ御諮リシタ所カドウセ今マテ不自由シタコトタカラ急カスニ研究シテヤロウト云フ御説テアツタ」というものである。将来の見通しについて「二部教授ハ子弟ヲ賊ストカ国家ノ基礎ヲ危ウクスルトカ云フコトカアレハ国家ハ決シテ之ヲ許可スルモノテハナイ」「理事者ハ一二年生ノ児童ト雖モ二部教授ヲ止メタイコトハ希望トシテ持ツテイルカナカナカソウハ行カナイ」「故ニ乍遺憾全部ノ二部ヲ止メルト云フコトハ容易テナイト認メマス」「乍併先ニモ申シ上タ通リ公債ヲ起シテ建テタイト云フ希望テ目下調査シテ居ルノテアリマス」と述べている。具体的には3年生以上の二部教授の一掃の意図を表明している(『函館区会議事録』)。
 函館女子小学校児童保護会会長で、学務委員でもあった渡辺熊四郎は、その後も機会あるごとにこの間題を取り上げ、新聞に、教育雑誌にと二部教授廃止の論陣を張っている。ただこの問題の解決は簡単ではなかった。大正期を通じて二部教授は残されているし、昭和期には大火による校舎の焼失もあって、撤廃の世論の実現はみていない。
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