通説編第3巻 第5編 「大函館」その光と影


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第2章 20万都市への飛躍とその現実

第5節 躍進する北洋漁業と基地の発展

4 母船式鮭鱒漁業の展開

沖取鮭鱒漁業の始まり

平出漁業と母船式鮭鱒漁業

母船式鮭鱒漁業の発展

企業合同への道

合同「太平洋漁業」の成立

沖取漁業への農林省の対応

合同会社「太平洋漁業株式会社」の成立

企業合同への道   P610

 母船式鮭鱒漁業の漁法が改善され収益性が期待されるようになると、露領漁業の企業合同で漁場を失った漁業家は、合併時に手にした漁場譲渡金を資本に沖取漁業への参入を図った。露領漁業の合同が実現したのは昭和7年5月であったが、すでに昭和6年からこれを察知した漁業家は、とりあえず沖取漁業の権利確保を目的に農林省に許可申請を行っている。こうして昭和6年には新規に申請した許可10件が加わって許可件数は17件に増加したが、実際出漁したのは9社、10母船にとどまった。新規に許可を受けた10件のうち、6件は不出漁により失効した。翌7年は、漁場を失った露領漁業者の参入で、許可件数は一挙に32件に急増した。この年出漁したのは8社であったが、操業規模は、母船13隻と付属漁船111隻、使用流網は6290反と拡大し、漁獲量328万1000尾で前年の2.8倍、製品生産高も2倍以上となって各船団ともに相当の成績をあげた。このため翌8年の許可出願者が大幅に増加して競争も激化したが、その中で企業の合併と企業買収が積極的に進められた結果、許可数は前年を下回ったものの、全体の操業規模は大幅に拡大した(表2−128)。
表1−128 合併前の母船式鮭鱒漁業の出漁状況
年度
企業数
母船数
独航船数
従業員数
使用魚具
流網
建網

昭和4
5
6
7
8
9

1(5)
3(7)
9(17)
8(32)
10(26)
8(10)

1
6
10
13
19
16

0(2)
7(36)
15(58)
39(72)
153(32)
256(49)

75
998
1,364
1,425
3,709
5,543

350
822
1,630
6,290
13,664
27,460


5
8
8
6
3
『母船式鮭鱒漁業誌』より作成
注)企業数の( )内は許可数、独航船数の( )内は搭載船数
 沖取漁業における企業合同は、昭和6年に創設された太平洋漁業株式会社に始まり、昭和7年の沖取合同漁業株式会社、そして昭和8年の大同漁業株式会社、宮城漁業株式会社、勘察加沖取漁業株式会社と続いた。前の2社は、日魯漁業と林兼商店が、それぞれ既存企業を合併して設立した会社であるが、後の3社は、8年度の許可を受けた露領漁業家と一般事業家が合同して設立した会社である。次に各社の設立の経過を述べておこう。

太平洋漁業株式会社   P611

  昭和6年、日魯漁業と八木本店が合併して作られた会社である。八木本店は、前述のように、沖取漁業を早い時期から手掛けてきたが、昭和5年に倒産した。そこで翌年、函館製網船具、北海製缶、函館船渠などの債権者が、権利と資産を引き継ぎ、八木漁業株式会社を設立して事業を続けた。だがこの年も10万円以上の赤字を出し、その打開策が日魯漁業に持ち込まれた。そして同年11月、日魯漁業と八木漁業が合併して太平洋漁業株式会社が設立された。新設された会社は、発足当初は函館製網船具、八木漁業、日魯漁業の3者の役員構成で運営されたが、翌7年の操業が終了した後、日魯漁業は八木漁業の持ち株全額を買収し、社長はじめ主要役員ポストを占めて日魯漁業の完全な直系企業に組み込んだ。この太平洋漁業は、後に母船式鮭鱒漁業会社すべてを吸収合併して事業の独占を果たすことになるが、太平洋漁業を傘下に収めたことは、その第一歩を踏み出したことになるのである。

沖取合同漁業株式会社   P611

 昭和7年林兼商店が、沖取漁業の将来性に着目して3名の沖取漁業者(橋本文治、綿貫覚、金沢冬三郎)を吸収合併して設立した会社である。9年にはさらに露領漁業から転換した荻布宗太郎の権利を買収して、太平洋漁業に匹敵する企業に成長した。同社の会長には林兼商店の中部謙吉が就任し同社の実権を握っていた。

大同漁業株式会社   P611

 昭和8年旧露領漁業家の佐々木平次郎、須田孝太郎を中心に新たに許可を受けた22名の出資者を集めて設立した会社である。
 これらのほか、昭和8年に設立された会社には、宮城漁業株式会社、勘察加沖取漁業株式会社があるが、両社はともに新たに許可を取得した者が設立したもので、この年には、沖取漁業には最初から出漁を続けてきた平出漁業、および露領漁業から転換してきた袴信一郎、藤木治郎平、荻布宗太郎、坂本作平(東邦水産株式会社)らの個人漁業家を含めて10社が出漁した。
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