通説編第4巻 第6編 戦後の函館の歩み


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第1章 敗戦・占領、そして復興へ
第5節 教育制度の改革と戦後教育の諸問題
1 占領期第1期の教育(昭和20年8月−23年)

平時教育への転換

戦時教育体制の払拭

教育改革の構想とその実現

6・3・3制の実施

カリキュラム改造運動

社会教育の新たな出発

教員組合の結成

カリキュラム改造運動   P240−P244

 昭和22年に作成された学習指導要領(一般編・試案)は、従来の教育内容政策を180度転換させる考え方を提示していた。同書はその序章において、「これまでの教育は、その内容を中央できめると、それをどんなところでも、どんな児童にも一様にあてはめて行こうとした。だからどうしてもいわゆる画一的になって、教育の実際の場での工夫がなされる余地がなかった。このようなことは、教育の実際にいろいろな不合理をもたらし、教育の生気をそぐようなことになった。」と批判して、「この書は、学習の指導について述べるのが目的であるが、これまでの教師用書のように、一つの動かすことのできない道をきめて、それを示そうとするような目的でつくられたものではない。新しく児童の要求と社会の要求とに応じてうまれた教科課程をどんなふうにして生かしてゆくかを教師自身が自分で研究して行く手びきとして書かれたものである。」と述べて、教師自身による教育方法研究の重要性をはじめて明らかにしている。
 教育課程の編成についても、第3章において、「教科課程は、それぞれの学校で、その地域の社会生活に即して教育の目標を吟味し、その地域の児童青年の生活を考えて、これを定めるべきである。」と述べている。教育課程の編成を学校と教師に委ねる方針を示したのである。このような文部省の方針の転換もあり、学校や教師のカリキュラム研究が戦後新教育の中心課題に位置づけられて、活発な運動が全国的に展開されることとなった。新しいカリキュラムの研究は、一部の学校で、すでに昭和21年から始まっていたといわれる。師範学校附属小学校や公立の小学校で、「○○プラン」と呼ばれる多くのカリキュラムが発表された。明石小学校プラン、奈良女高師附属小学校プラン、新潟師範附属小学校プラン、神奈川県福沢小学校の福沢プラン、東京桜田小学校の桜田プラン、千葉県館山市北条小学校の北条プラン、広島県の本郷プランなどは全国に知られたカリキュラムの事例といえる。
 当時おこなわれた調査によると、全国で報告された225校のカリキュラムの種類は、コア・カリキュラム研究55校、生活カリキュラム研究48校、社会科カリキュラム研究81校、郷土社会学校研究31校、学校経営の研究10校であったといわれる(仲新『日本現代教育史』)。
 北海道では、北海道第一師範学校男子部附属小学校や北海道第二師範学校附属小学校など、コア・カリキュラムの研究が盛んにおこなわれたことが知られている。第二師範学校附属小学校の場合、「この頃の付属教育のスローガンは『生活を、生活によって、生活する』という生活教育を基本とするものであった。現実の生活、具体的経験、生成発達を重視する立場である。この立場からコア・カリキュラムが計画されたのである。」といわれているように(北海道学芸大学付属函館小中学校『創立四十周年記念誌』)、コア・カリキュラムの編成が試みられている。第二師範学校附属小学校の「総合生活課程」の中核課程を示すと表1−47の通りである。附属函館小中学校では、「コア・カリキュラムの編成は昭和二十三、二十四年とおこなわれ、二十五、二十六年は実践期であった。」といわれる。
 亀田小学校でも、同様に「教育の方向を『児童生徒の生活を、生活せしめることによって、よりよい生活を創造させる』生活教育に求めた。」といわれている。同校の教育目標および方法は、「日本を平和的、民主的に再建する実践的生活人の育成を教育の目標とし、個性の開発、社会連帯性の強化、郷土に起点をおく文化水準の向上、健康の増進を具体的目標にすえた。教育の目的とプロセスを支配する原則として『教育は経験の改造である』という観点を立てた。」というものであった(『研究紀要第十集』)。
 両校の教育内容編成と教育方法の原理は、どちらも生活教育の観点に立つものであったことが知られ、全国的な動向と同様の方向を志向していたことが明らかである。
 函館社会科教育懇話会(坂本信一郎会長)でも、昭和23年に、新学期に間に合わせて、小学校および中学校の社会科の学習指導計画案を試案と銘打って公表している。この計画試案では、小学校の場合の単元設定の根本態度として、「児童の生活する社会環境を一応(食糧、衣類、住居、教育、健康、交通・通信・運輸、分配と消費、厚生・慰安、宗教、生産、保全、政治)の12機能としてとらえ、これを地域社会(函館とその附近)の実態と、児童の心身発達に応じて理解させることにより社会科の目標を達成」することをあげている。アメリカにおけるコア・カリキュラムのスコープの設定にならって、社会機能によって教育内容を選択し、児童の心身の発達に応じて配列する方法を採用していたことが明らかである。この計画案の小学校の作業単元系列表を、示すと表1−48のとおりである。
表1−47 北海道第二師範学校附属小学校総合生活課程学習課題表(昭和23年度試案)
学年 第一学年 第二学年 第三学年 第四学年 第五学年 第六学年
経験領域 学校 家庭
直接 経験
近隣の生活
空間的拡大
郷土の生活
現実面に重点をおく
郷土より地方社会、過去から現在の生活 地方社会から日本 日本から国際社会
興味の中心 学校の生活 近隣の働く人々 自然環境
自然天文現象に興味を持つ
自然環境の利用
天文自然に興味を持つ、人生問題、地理に興味が出て来る
科学と発明発見
のりもの、スポーツ等に興味を持つ
近代文明生活
電気、印刷、トンネル等に興味を持つ
社会意識の発達
  \
範囲
地理的、歴史的関心は未だない 神話についての関心が出る
現在中心が強く歴史的意識が殆どない
大昔の生活を今と比べる
社会事象に目をむけはじめる
東京その他日本の地名が出てくる
歴史的関心は郷土史偉人について強い
地理的関心は全国に拡まる
日本の歴史について関心を向ける
日本とそれに関連した世界の理解
社会事象についての関心が多方面に亘る
生産

分配

消費

交通

通信

保健

保全

政治

教育

娯楽

家庭
●たのしい学校
おともだちと仲良くし生活をたのしくするにはどうすればよいか
自分の道具や人のものを大切にするにはどうすればよいか
●つよい子
身体を丈夫にするにはどうすればよいか
丈夫な身体になるために住い方や毎日のくらし方はどのようにしたらよいか
●私のうち
家でたのしい時間をもつために私たちはどうすればよいか
お家でよい子になるためにどうすればよいか
●学校の近所

●おいしゃさん

●配給所

●おまわりさん
●水のみ

●船と港

●私たちのまち

●家

●市場と店

●冬の生活
●道路と鉄道

●町の清掃

●函館の発達

●町と田舎

●郵便局

●安全な生活

●住みよい町
●学校

●病気と病院

●水産と貿易

●農業

●北海道の開拓

●燃料

●ラジオ
●学校の自治

●新聞

●工場

●旅行と運輸

●商業

●電気

●新しい日本
北二師附属校教官藤川光夫「社会科教育課程構成の理論とその実例」、北海道学芸大学『教育研究』
表1−48 作業単元系列表
社会機能/学年
1
2
3
4
5
6
食料 くだもの店
雪やこんこ
つけもの 食物
冬の生活
家畜のいろいろ
魚と野菜 函館の水産と貿易 上手な物の買い方
日本の再建
衣類 雪やこんこ   食物
冬の生活
家畜のいろいろ
    上手な物の買い方
日本の再建
住居 雪やこんこ 私の家 冬の生活 函館と港 楽しい我が家 日本の再建
燃料
教育 楽しい学校
うれしい夏休
二年生になって
絵日記
冬休みの思出
三年生 学校自治会
四年生の反省
私達の学校 学校の自治
日本の再建
健康 こいのぼり
運動会
強いからだ たべもの 函館と港
魚とやさい
病院 工場
日本の再建
交通・通信・運輸 電車ごっこ ゆうびんやさん 船と汽車 函館駅
函館と港
交通と通信 新聞
日本の再建
分配と消費 お店ごっこ 配給ごっこ 市場 デパート 函館の水産と貿易 上手な物の買い方
日本の再建
厚生・慰安 遠足
みなと祭り
学芸会
早くこいお正月 
お花見
ラジオ遊び
十五夜さん
お友だち 函館と港 ラジオと新聞
楽しい我が家
日本の再建
電気
宗教 おひなさま 七夕 まつりのいろいろ 函館と港 楽しい我が家 日本の再建
生産 おてつだい さくもつ たきもの 函館と港
魚とやさい
函館の水産 工場
燃料・電気
日本の再建
保全 電車ごっこ
雪やこんこ
火の用心
さくもつ
水道
電気とガス
函館と港
消防署
私達の学校
病院
安全な生活
燃料
工場
日本の再建
政治   お巡りさん   市役所分室 住みよい町
安全な生活
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