通説編第3巻 第5編 「大函館」その光と影 |
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第2章 20万都市への飛躍とその現実 第5節 躍進する北洋漁業と基地の発展 2 日ソ漁業条約成立後の日ソ漁業関係 漁撈長相互会の反対運動 |
漁撈長互助会の反対運動 P596−P598 日本人漁夫の雇用中止の知らせは、昭和8年3月中旬、ウラジオストクのリューリ商会本店から同函館支店に極秘裡に伝えられた。これをソ連漁場に雇用される船頭および副船頭でつくられた「漁撈長互助会」のメンバーが感知して、問題が一気に表面化した(前出「「極東露領沿岸ニ於ケル漁業関係雑件」、以下の叙述も本史料による)。通報を受けた互助会は、3月18日、ソ連企業に雇用される漁夫の失業救済を求める嘆願書を北海道庁に提出する一方、中央関係官庁に対する事情説明と在日ソ連大使館、通商代表部への陳情を行うため、互助会幹事長山内千代造、同監査役塗谷秀五郎を上京させた。両代表は内務、外務、農林各関係官庁の了解を取り付け、同月20日、地元の大島寅吉代議士に伴われてソ連通商代表部を訪問して次のような陳情を行った。 一 我々は長年相当の努力を払いソ連邦企業で働いてきたこと 二 漁業労働者の雇用関係は一片の物品の売買とは異なり相当の情義と徳義心によって維持されるものであること 三 昨年度以来何等の通知がないので例年通り雇用されるものと確信して待機していたこと 四 ソ連邦の国策(日本人漁夫の雇用中止)とはいえ、一片の予告なしに雇用関係を中絶することは道義に反していること 五 時機を失った今日転換策は全くないので本年度1年だけでも雇用を継続して欲しいこと これに対して、通商代表は、日本人漁業労働者を昭和8(1933)年度漁期間中使用しないという計画は昨年12月中に決定し公表されたことであり、すでに漁業労働組合代表と称するものに伝えたはずだが、とりあえず本国政府に打電し陳情の趣旨を伝え至急回答を得るよう努力することを約束した。 また同月22日、互助会代表は、大島代議士と同行してソ連大使館を訪問して、通商代表部と同じ内容の陳情を行った。これに対してユレーニエフ大使は、日本人のソ連漁業に対する貢献は十分認識しているが、出先官憲の一存で国策を変更できないことであり、あらためてウラジオストクの漁業統制機関と本国中央政府に、実情を報告して事態の改善に努力することを約束した。 この後28日、坂本函館市長は、両代表と大島代議士と同行してソ連大使館を訪問し、大使に次のような陳情を行った。「権利ヲ主張スルモノニ非サルモ従来ノ雇用慣例ヨリ若シ雇用ヲ中止サルルモノトセバ数ヶ月前ニ予告サルルヲ至当ト思惟ス雇傭ヲ中止ハ被雇傭並ニ其家族ノ生活上重大問題ナルヲ以テ本年丈ハ如何ナル事情アリトスルモ是非雇傭スルヨウ尽力ヲ願ウ」。さらに最小限1000人以上は必ず雇用することを要望した。 大使は、これを受け直ちに本国機関に再度打電すること、回答は大使の責任において函館領事を経由して坂本市長に通知するとを確約した。 この中央に対する陳情活動に平行して、互助会は、21日、北洋親睦共済会主催の北洋漁業労務者大会と演説会を開催している。大会では次のような宣言と決議を可決した(昭和8年3月23日付「函毎」)。 宣言 函館領事館から伝えられた回答の内容は、「大使館ヨリ本国政府ニ対シ日本人漁夫雇傭問題ニ関シ稟申中ノ処国策ニ依リ雇傭セサルコトニ決定シ且予算ノ変更困難ニ付外国人労働者ハ一名モ雇傭セス」というものであった。 |
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