通説編第3巻 第5編 「大函館」その光と影


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第1章 露両漁業基地の幕開け
第1節 区政の展開と政治潮流の実相
2 区会議員の政治的潮流

立憲政友会支部の結成と分裂

明治末から大正初年の区会議員選挙の動向

大正6年の区会議員選挙に至る政治事情

区制期最後の区会議員改選

明治末から大正初年の区会議員選挙の動向   P40−P43

 明治38年以降の区会議員の半数改選の結果は、表1−11の通りである。
表1−11 明治38〜大正9年区会議員選挙結果
明治38年
3級(投票者 不詳)
2級(投票者 176人)
1級(投票者 23人)
寺井四郎兵衛 (有)
渡辺熊四郎   (有)
佐野定七    (有)
遠藤吉平    (有)
竹内與兵衛   (有)
松山吉三郎   (公)


646
629
607
621
588
*563

泉孝三      (有)
斎藤又右衛門 (有)
杉浦周作    (有)
石塚弥太郎   (公)
有江金太郎   (公)
平田文右衛門 (有)
品田鹿造    (公)
和田惟一    (公)
105
103
102
100
86
*84
+98
+87
石垣隈太郎   (有)
網塚忠兵衛   (有)
明石正三郎   (有)
小熊幸一郎   (有)
四ツ柳亀太郎 (有)
工藤嘉七    (有)
18
14
12
12
12
+11
(有)=有志派、(商)=商業派、(公)=公友派
明治41年
3級(投票者 524人)
2級(投票者 88人)
1級(投票者 23人)
大久保利助   (公)
池田勝右衛門 (公)
和田惟一    (同)
藤村駒吉    (政商)
松下熊槌    (同)
野村正之助   (公)*
清水政吉    (公)+
387
366
345
328
326
219
333
金沢彦作    (同)
加藤慶次郎   (公)
四ツ柳亀太郎 (中)
田村力三郎   (政商)
八木橋栄吉   (同)
高橋文之助   (公)*
野村正之助   (公)*
82
80
80
80
79
2
2
三坂亥吉   (公)
杉野三次郎 (公)
梅津福次郎 (政)
品田鹿造   (公)
岡村藤治   (政)
佐藤槌之丞 (公)*
22
22
22
18
17
7
(政)=政友会函館支部系、(同)=同志倶楽部系、(公)=公友派
(中)=中立、(商)=旧商業倶楽部系
大正 3年
3級(投票者 712人)
2級(投票者 不詳)
1級(投票者 49人)
高橋倉太郎 (有)
太刀川善吉 (有)
大久保利助 (有)
金沢彦作   (有)
葛西耕芳   (有)
松田令司 *

無効白紙 174人分
562
508
466
454
413
267
佐々木平次郎 (有)
松下熊槌    (有)
梅本覚太郎   (有)
高橋米治    (有)
八木橋栄吉   (有)
田村力三郎
武富平作    (有)+
小林貞一    (有)+
135
127
127
125
122
24
124
118
三坂亥吉    (有)
石塚弥太郎   (有)
浜崎治助    (有)
四ツ柳亀太郎 (有)
恩賀徳之助   (有)
田村正三郎   (有)*
48
47
44
43
42
13
(有)=有志派
大正6年
3級(有権者 1,513人)
   (投票者 354人)
2級(有権者 249人)
   (投票者 127人)
1級(有権者 43人)
   (投票者 35人)
武富平作    (公)
松田季蔵    (北)
斎藤又右衛門 (中)
浅井重太郎   (国)
伊東悌造    (中北)
外崎直太郎   (?)*
282
267
265
258
241
58
渡辺長一郎 (公)
黒住成章   (政)
岡本康太郎 (中)
秦貞三郎   (政)
高橋善平   (公)
平出喜三郎 (公)*
平出喜三郎 (公)+
116
116
115
115
108
7
112
前田卯之助 (中)
宮沢嘉貞   (公)
宮本武之助 (北)
姫岩秀次郎 (公)
綿引綱    (国北)
工藤忠平   (?)*
33
30
30
26
24
5
(公)=公正会員、(北)=北門倶楽部員、(政)=政友会函館支部員、
(国)=国民党員、(中)=中立、(?)=不明
大正9年
3級(有権者 1,548人)
   (投票者 1,160人)
2級(有権者 不詳)
   (投票者 245人)
1級(有権者 64人)
   (投票者 51人)
中村新八   (北)
坂本作平   (公)
外山平治   (北中)
恩賀徳之助 (公)
浜崎治助   (公)
永田砺    (北)*
平出喜三郎 (公)+
632
625
616
593
583
544
590
小野庄吉   (北)
中村諭二郎 (北)
坂井定吉   (北中)
佐々木文治 (北)
坂本寿太郎 (北)
新藤栄太郎 (公)
166
149
139
137
132
*125
太刀川善吉 (北中)
亀井喜一郎 (公)
松下熊槌   (北)
葛西耕芳   (北)
渋谷金次郎 (公)
渡辺熊四郎 (北中)*
金沢彦作   (北)+
32
31
30
28
27
27
29
(公)=公正会員、(北)=北門倶楽部員、(北中)=北門倶楽部推薦の中立派
明治38年12月2・3日付け「北海タイムス」、同41年12月4・5日付け「北海タイムス」、
大正3年12月1・2日付け「函館新聞」、同6年12月1・2日付け「函館新聞」
同9年12月1・2日付け「函館新聞」および「回想録」等より作成
注)各表共通して、*は次点、+は補欠選挙当選者
  明治44年は別に表1−12とした
 明治38年の選挙は、商業倶楽部と公友会の連合軍が有志派と争った選挙と評された。市内の新聞社も2派に別れ、函館毎日新聞と北海新聞が有志派を支持し、函館日日新聞が商業倶楽部、公友会連合を支持したという(11月28日付「北タイ」)。下馬評では3級選挙は連合側が有利と言われていた。3級選挙では有志派が全議席を占めている。後の新聞報道には、この選挙の際「党派の対立が区の平和を害し、広く人物を挙ぐるに妨げとなるを認め、挙区一致、人物本位の見地に選挙を行なわんとの説殆んど一般に是認せられ、同志倶楽部先づ解党して区の有志と相合し、以て選挙に勝を占めた」(大正3年12月8日付「函新」)とあって、この手法で選ばれた議員を有志派と呼んだ。有志派のメンバーを見ると、同志倶楽部といわれていた人が多く、またその後の当事者たちの回想等では中立派といわれた人も含まれている。この結果、区会の構成は、有志派21人(内前回からの残留議員は八木橋栄吉ら6人)、商業倶楽部6人(藤村篤治ら全員が残留議員)、公友会所属3人となり、12月8日の区会では27人が出席して区会人事を決めた。次いで八木橋栄吉の動議で、助役、収入役の改選を行なったが、田村力三郎ら8人がこの動議に反対して退席し、議場に残った19人で実施され、現職の北守助役、渋谷収入役が満票で当選した。
 明治41年の区会議員選挙は、すべて妥協派が制したと報じられている(12月6日付「北タイ」)。今回も有志による選考を経ての選挙であったと思われるが、その本質が垣間見え、妥協派と表現されたのではないだろうか。3級および2級選挙の得票数がかなり減っており、有志会議などにより事前に選挙結果が見える挙区一致が影響したのかもしれない。12月9日開かれた初区会には26人が出席し、「近来稀なる盛況」と報じられ、かつ常設委員など区会人事の選挙で「小暗闘」があって、開会時間の2時間遅れなどが記されている(12月11日付「北タイ」)。「小暗闘」などの内容は不詳であるが、この選挙で選ばれた区会議員の在職中に行なわれた商業会議所議員選挙では、これまでの派閥が厳然として存在し、かつ均衡人事が行なわれていた。明治43年10月の選挙で、政友会支部、公友会、有志派にそれぞれ6人が配分される協議がまとまったと報じられている(10月10日付「函日」)。
 このような選挙前の候補者選考などが選挙結果を左右する事情はその後ますます強まる傾向にあった。明治44年の区会議員選での有志派候補者の選考過程を新聞報道で整理すると次のようになる。まず11月22日に公会堂で候補者予選の有志大会が開かれ、高橋文之助を座長に選んで銓衡委員15人を選出、翌23日銓衡委員会を開いて16人の候補者を決定した。推薦広告は、広谷源治、高橋文之助の2人が主唱者となり、47人の推薦者と函館日毎日新聞社、函館日日新聞社、北海新報社の名で出された。なお、この有志大会における小橋栄太郎の発言は政治風土に一石を投じる内容が含まれているので、その概要を紹介しておく。
 小橋は候補者の選考と内定過程における「有志大会」の形式性を問題にし、本来議員選挙は「或る主義或る競争の下に公行」にされるべきであると主張し、「公民大会」の開催を求めた。さらに、一部の人による「非立憲的」な「妥協等を私して区民を庄迫」するのは「自由競争よりも却って弊あるあり」と説いて大会の主催者に「間然なき公明の態度」を取ることを要請したのであった。選挙結果は表1−12の通りである。
 大正3年の区会議員選挙もやはり有志推薦候補者の選挙となった。ただし松田令司らが区政刷新を掲げて運動したため若干の波乱があったことが報じられている(12月3日付「函新」)。新区会は12月9日に開かれ、議長代理者、常設委員などの区会人事選挙は、前日の議員有志打合会の通りに決定された。
表1−12 明治44年区会議員選挙結果
3級 2級 1級
平出喜三郎
松山吉三郎
斎藤又右衛門
佐藤槌之丞
明石正三郎
有江金太郎 *
316
310
299
295
286
84
秦貞三郎
高橋文五郎
今井辰太郎
亀井邦太郎
工藤嘉七
有江金太郎 *
123
122
116
116
105
17
石館友作
林豊三郎
渡辺三作
野村正之助
伊東悌造
宮村松次郎 +
有江金太郎 *
35
34
34
34
33
33
3
明治44年12月1〜2日付け「函館毎日新聞」より作成
注)*は次点、+は補欠選挙当選者
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