通説編第3巻 第5編 「大函館」その光と影


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第3章 戦時体制下の函館
第3節 統制下の北洋漁業
2 北千島鮭鱒漁業の統合

北千島鮭鱒漁業移管問題

北千島水産(株)の発足

北千島鮭鱒定置網漁業の合同

北千島水産(株)の発足   P1185−P1186

表3−28 北千島水産初年度主要株主
主要株主
持株
幌延水産(株)
太平洋水産(株)
中部謙吉
北海道漁業缶詰(株)
(株)藤野缶詰
北千島合同漁棄(株)
北千島漁業運送(株)
東邦水産(株)
袴信一郎
千島漁業(株)
40,910
22,244
15,563
14,068
13,955
13,941
12,771
12,736
8,399
4,603
『北千島水産 第壱期報告書』昭和13年度より作成
 昭和13年3月、北千島の缶詰企業10社の内の8社と、漁船200隻の内167隻が合同して北千島水産(株)が設立された。そして同年9月、当初参加を見送っていた林兼商店と北千島漁業運送(株)と付属漁船33隻が参加したことによって、北千島の鮭鱒缶詰業と流網漁業の完全統合が実現した。新会社の資本金1100万円は、流網漁船200隻の権利金500万円、缶詰工場の権利金400万円、工場施設200万円の現物出資で調達された。初年度(昭和13年11月30日)の主要株主を挙げると(表3−28)、以上10株主になるが、これら株主の持株合計は15万9190株になり、全株式の72.3%を占めている。このうち日魯漁業系列の幌筵水産、太平洋水産の持株が6万3160株、28.7%のシェアーを占め、合同会社における日魯漁業の支配的地位を保障していた。新会社の役員構成(取締役10名、監査役4名)をみると、主要ポストには、日魯漁業の幹部役員が就いている。だが、流網漁業者6名が役員に参加していること、また定款では、定款の変更、役員の選任と解任、合併と解散、事業計画・変更、漁業者との魚価協定、利益金処分などの重要事項の決定は、北海道庁の承認事項とされていた。これらのことは、合同反対運動に対する政治的配慮と、北海道庁の水産業政策と農林省の国家統制を背景とした国策会社の性格を示すものであった(『日魯漁業経営史』第1巻)。合同会社ができたことで、これまでの流網漁業者は、営業権(漁業許可)を会社に譲渡して株主になり、同時に会社専属の流網漁船の船主として直接漁撈に従事し、漁獲物は会社と協定した価格で売り渡すことができることになった。ただし、契約書には、漁業者は共同名義以外には許可の出願を行わないこと、共同名義の場合でも、漁業者の名義は、単に将来の漁撈従事を保証するのみで、許可の実質は総て会社に帰属し、操業は会社側の指示によることが決められていた。流網漁業者は、株式の取得によって経営に参画したことにはなるが、内実は合同会社の完全な下請け企業に組み込まれることになった。
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