通説編第3巻 第5編 「大函館」その光と影


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第2章 20万都市への飛躍とその現実

第4節 戦間期の諸産業
3 工業化の進展

4 昭和9年大火前後の工業界

工場数と職工数

製造業の生産額と収益状況

各産業の状況

製造業の生産額と収益状況   P459−P461

 表2−69および表2−70により、職工数5人以上の工場の生産額をみると、昭和4年に激しく増加したあと昭和9年の大火による減少を除いて、2000万円を少し上回る金額で停滞し、10年から上昇に転じたことがわかる。表2−70bに揚げた工業総生産はその調査方法が不明で上記の金額との関連がつかめないにしても、生産額は12年から上昇している。そして、水産などを含めた市内の総生産額に占める工産の比率は、この期間80%台ではあるが、上昇の基調で12年には約90%に達している。
 業種別の生産額を表2−70aでみると、6年から8年までは食料品工業がトップで25%前後、9年からは機械器具工業がトップで20%前後、金属工業は10%を少し上回って横ばいであるが、製材・木製品工業は9年を境に低下する。これとは逆に化学工業が6年の約10%から12年には21%と大きく上昇する。化学工業の躍進は新興産業である鰮魚油工業の勃興がゴム工業に加わったからである。食料品工業では鰮製品などの水産加工業の発展があった。金属工業では缶詰用空缶の製造額が大きい。こういった詳しい事情は後述する。
 『北海道庁統計書』では、昭和4年からはじめて工業生産の収益状況が発表されるに至ったので表2−69に引用した。製造額をみると、昭和4年は先に述べた通り大きく増加した年であることが示されており、5年から低下し再び8年から上昇に転じて、14、15年には4千数百万円に達したことがわかる。そして、原材料消費額により原材料率をみると昭和4年は極端に低いが、5年以降10年までは60%台の前半で推移している。12年には70%をこえて、戦時経済体制下における原材料の入手難と価格上昇がはじまったことを示している。次に賃銀率をみると、産業合理化の時代の流れにそって7年から10年までは、10%を少し上回る比率に低下している。これは1人当りの1か年の賃銀がそれまでの470円から300円台に落ちこんだことで明らかである。1人当りの賃銀は12年以降400円台に回復する。以上で物価低落の昭和恐慌期とその回復過程に函館の工業が対応した模様をうかがってきたが、製造業の収益状況を示すもう1つの史料を表2−71で示した。それは従来の営業税にかわって昭和2年から施行された個人営業収益税に関する史料である。函館税務署管内のものであるが、かなりの程度函館市の分をカバーしているであろう。これによると、純益金額は昭和4年をピークにして低下しはじめ大火で被害のあった9年が底となり、再び上昇に転じている。昭和恐慌期における個人営業の製造業の収益低下の状況を明確に示している。なお表2−69の在庫額をみると、昭和4年の好況期の在庫額がそれ以後の年在庫額より突出して多いのが目をひく。不況期には在庫をへらして対応したものであろう。
表2−69 製造業(職工数5人以上)の推移
年次
製造額A
原料消費額B
賃銀支払額C
原材料
賃銀率
1人当り賃銀
在庫額

昭和4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15

19,639,798
15,980,642

15,699,705
17,904,700
19,102,571
22,700,435

23,913,951

46,027,712
48,594,002

9,484,213
10,083,446

10,348,030
10,816,277
11,929,958
14,363,173

17,111,225

31,263,135
30,115,022

2,172,196
2,168,187

1,710,449
1,806,167
2,008,577
2,180,986

3,409,500

3,489,479
4,127,855

48.3
63.1

65.9
60.4
62.5
63.3

71.6

67.9
62.0

11.1
13.6

10.9
10.1
10.5
9.6

14.3

7.6
8.5

467
470

313
363
357
342

448

427
441

1,948,252
1,005,438

998,572
1,139,379
1,169,905
1,538,543

1,438,389

1,551,180
2,317,008
各年『北海道庁統計書』より作成。昭和6、11、13年は欠。
注)原材料率=B/A×100、賃銀率=C/A×100
表2−71 個人営業収益税状況
年次
営業人員
純益金額

昭和2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14

179
260
246
235

240
248
168
214
265
242
237
329

319,748
385,758
407,230
352,070

266,920
274,600
167,150
228,420
257,160
288,250
559,580
747,810
『北海道庁統計書』(6年欠)より。
注)函館税務署管内の状況である。
表2−70 工場数・生産額
a.職工5人以上の工場の業種別生産額(円)
年次
紡織工業
金属工業
機械器具工業
窯業
化学工業
製材及木製品工業
印刷及製本業 食料品工業 瓦斯及電気工業 その他の工業
昭和6
7
8
9
10
11
12
1,021,556
1,327,924
1,165,263
359,303
1,782,482
1,999,199
3,114,239
2,327,585
2,292,974
2,317,009
2,293,703
2,969,077
2,431,799
3,382,604
3,741,496
3,780,699
3,718,283
3,979,077
4,549,556
5,032,299
7,269,567
239,245
235,006
133,456
120,330
120,380
128,537
124,300
2,101,231
2,058,344
2,134,233
3,221,585
3,875,115
4,559,114
6,905,958
4,177,029
4,033,982
4,073,907
2,699,343
2,900,661
2,781,164
2,750,178
932,678
821,162
812,356
634,013
718,974
750,147
754,512
5,339,761
5,260,722
4,461,346
3,680,142
4,025,570
4,975,039
5,883,495
520,612
263,741
320,020
312,572
323,604
363,890
369,875
719,275
674,555
1,545,683
1,006,478
1,724,036
1,838,235
2,079,765

b.規模別総生産額(円)
年次
5人以上の工場
全工場
昭和6
7
8
9
10
11
12
21,120,468
20,749,109
20,681,556
18,306,546
22,989,455
24,859,423
32,634,493
33,842,182
33,063,748
32,532,871
30,397,054
31,641,647
33,333,553
42,481,558
昭和6〜8年は『産業之函館』昭和9年)、9年は『函館市誌』より、10〜12年は『産業之函館』(昭和14年)より作成。
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