通説編第3巻 第5編 「大函館」その光と影


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第1章 露両漁業基地の幕開け
第2節 商工業の進展と海運・漁業の展開
2 函館工業の近代化への途
3 主要企業の動向

函館船渠(株)

北海道セメント(株)

北海道人造肥料(株)

北海道機械網(株)

函館水電(株)

函館水電(株)   P120−P124


函館水電(株)(『函館市制実施記念写真帳』)
 函館水電については、「家内工業の動力化」および「水電問題」(第2章第1節)の項目で述べてあるので、ここでは水電の経営上の特質を説明する。
 水電の発電能力は、この期では大沼第一、第二、第三および亀田火力発電所の建設で、出力合計5000キロワット(大正8年現在)と拡大して地域の需要に応えてきた。ところで、電灯収入と動力収入の比率をみると、電灯収入が60〜70%であり、「電燈会社と呼ぶにふさわしい」(『北海道電気事業史』北海道電気協会)内容であった。動力では大口がセメント会社と船渠会社の2社のみで、残りは増加したとはいえ区内の小工場の需要であったからである。これに対して電灯需要戸数は大火の時期と北海道ガス会社函館営業所が大正元年10月に営業を開始した時に減少したにすぎず、明治40年の需要戸数3646戸が大正8年には2万7486戸に急増している。ガスは最初、燈火用として供給されたが、次第に熱用(燃料)に使用されることとなり、電気との差別化が進んだ。そして、ガス会社には副産物に骸炭(コークス)とコールタールの産出があった。
 なお、水電会社は函館馬車鉄道会社を買収して営業を継承している運輸業(電車)があり、その乗車賃も順調に増加して総収入の20数%に達していた。電力増設・電鉄建設の設備投資は増資と社債発行(生命保険会社の引受)などにより調達され、資本の回転はもちろん低いが、総収入に対する利益率は30〜40%の高さで、払込資本金対利益率は7〜8%であった。配当率は毎期10%、積立金も多額で地域独占の経営であった。
 経営者をみると、創立からは園田実徳が、そして渡島水電は阿部興人が、函館水電では再び園田実徳が社長であった。園田が大正5年に東京で死亡した後は、水電の本社は東京へ移転し、経営の中枢は東京となった。先にみた通り、北海道セメント会社は阿部興人(東京で大正9年死去)が退いて、浅野セメントとなったが、阿部、園田が函館の主要企業のトップであった時期はここで終り、東京資本の支配する時代へと移ったのである。
表1−35 主要企業の経営の推移(大正2年まで)
 
函館船渠
北海道セ メント
大日本人造肥料
北海道機械網
函館水電
北海道ガス
函館製紙
函館製瓦
函館精米
函館燐寸
明治38
397,857
651
236,240
218
 
320,631
619
64,806
55,844
14
 
9,360
11
 
 
 
39
594,307
598
405,569
335
 
488,436
594
71,540
68,092
16
 
7,700
11
 
 
 
40
672,047
655
577,544
343
 
502,312
561
89,064
53,019
16
 
8,300
10
89,199
118
 
 
41
544,307
446
697,119  338、
 
615,175
156
85,883
102,570
43
 
9,800
20
32,214
40
 
 
42
240,071

346
444,007

285
 
205,954

442
90,795

74,829
161,761
38
 
7,700

8
23,800

20
32,127

28
 
43
301,541

377
460,249

306
 
183,223

215
93,268

105,584
182,244
36
 
8,850

8
28,840

18
28,934

30
 
44
359,926

380
411,521

643
 
567,846

883
98,597

127,141
198,249
48
 
11,500

8
20,621

17
24,919

29
 
大正1
506,920
523
881,805
753
 
831,085
1,376
101,917
313,375
54
12,721
75
13,000
8
26,072
18
21,687
24
 
2
633,176
455
768,402
743
510,942
69
1,102,883
2,021
107,148
340,671
73
90,569
29
13,000
8
21,672
13
19,328
24
2,620
90
各年の『函館商業会議所年報』より作成。
注)1.上段は営業収入(円)、下段は職工数(人)を示す。営業収入とならんで製造価格も示されているが省略した。
  2.北海道機械網の明治44年以降は、函館製網合資となる。
  3.函館水電の左欄は、明治38年から同43年までは、函館馬車鉄道の収入である。44年からは函館水電の運輸部収入となる。
  4.函館水電の右欄は、明治38年は函館電灯所の収入、同39、40年は渡島水電の収入、41年からは函館水電の収入で、42〜44年の収入の上段は動力、中段は電灯収入、下段は職工数である。
表1−36 主要企業の経営の推移
a.函館船渠(株)
年次
収入
損益
払込資本
配当率
職工数

大正3
4
5
6
7
8
9

685,847
700,408
1,237,447
3,764,414
7,917,336
4,357,138
2,596,044

102,928
106,064
223,201
1,421,348
1,537,089
1,241,718
485,474
千円
570
570
720
720
2,000
2,000
3,000

8
8
10.4
20
79.6
30
20

8
8
15
200
40
30
8

612
658
933
1,210
1,193
1,071
1,021
各年の『営業報告書』より作成。
注)1.職工数は「四十年史」による。期末在籍者数で商業会議所の数字とは一致しない。
  2.配当率の7年と9年は株券の種類により差異があるが、甲種株式を記載した。左欄は上期、右欄は下期である。
b.北海道セメント(株)
年次
製品
職工数
数量
価額

大正3
4
5
6
7
8
9

120,000
127,561
316,673
539,620
600,000
603,000
710,964

324,000
484,732
1,507,563
3,804,321
5,370,000
5,396,850
6,398,676

274
285
534
831
789
674
817
各年の『北海道庁統計書』より作成。
注)1.大正4年からは浅野セメント北海道工場となる。
  2.函館区の統計には含まれないので注意すること。

c.大日本人造肥料(株)函館工場
年次
製品数量
製品価額
職工数
輸入数量
価額

明治41
42
43
44
大正1
2
3
4
5
6
7
8
9

1,316,000
1,622,080
1,368,931
1,852,457
2,247,000
5,068,557
4,530,178
4,726,320
5,009,109
4,987,348
4,895,702
4,462,163
4,112,769

197,400
262,776
124,280
203,770
247,173
557,541
474,891
538,627
751,366
982,508
1,174,983
937,054
1,201,665

53
45
45
46
70
67
69
62
67
58
58
59
59
ピクル


37,732
61,810
25,402
204,499
178,903
47,755
55,884
73,292
55,375
0
170,854



66,845
91,250
31,500
277,970
230,571
84,600
82,500
173,120
228,900
0
610,340
各年の製品数量、価額、職工数は『函館区統計書』より作成。
原料燐鉱石の輸入数量、価額は『函館税関外国貿易年報』より作成。

d.函館製網船具(株)
年次
収入
損益
払込資本
配当率
職工数

大正3
4
5
6
7
8
9

1,160,917
1,214,334
1,462,447
3,778,116
4,107,683
3,858,993
3,891,689

35,395
93,483
229,738
667,957
233,253
278,016
389,174
千円
270
270
330
330
498
498
1,250

8
15
20
60
30
120
20


184
345
800
759
157
157
各年の『営業報告書』より作成。
職工数は『函館区統計書j より作成。
注)1.大正6年7年の職工数には、監獄工場の職工が含まれている。
  2.大正6年と8年の配当は記念配当を含む。

e.函館水電(株)
年次
収入
乗車賃
合計
扉人数

大正3
4
5
6
7
8

401,244
431,878
494,841
638,348
688,493
1,060,000

130,019
145,977
174,197
240,810
306,799
385,771

531,263
577,875
669,038
879,158
995,292
1,445,771

81
87
83
79
54
収入は動力と電燈収入の合計で『函館区統計書』より作成。
雇人数も同様である。
乗車賃は「帝国電力(株)営業成績表」より作成。

f.その他
会社
北海道力ガス(株)
函館製紙(合資)
函館燐寸(株)
年次
収入
職工数
収入
職工数
収入
職工数

大正3
4
5
6
7
8
9

104,770
112,114
125,031
131,933
167,032
268,633
179,124

38
21
24
24
32
17
12

11,844
13,200
12,994
22,620
34,100
36,423
30,260

13
18
22
28
19
22
20

20,515
17,750
15,092
4,032
37,410
46,440
37,800

43
81
62
18
38
51
29
各年『函館区統計書』より作成。
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