通説編第3巻 第5編 「大函館」その光と影


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第3章 戦時体制下の函館
第5節 戦時下の諸相
4 戦時下の市民生活と7月14・15日の空襲

「生活刷新実践要綱」の制定

「要綱」と市民生活の変化

防空演習と市民

函館空襲

北部軍の被害状況

全滅した連絡船

函館市域の被害

函館市の戦没者

「生活刷新実践要綱」の制定   P1277−P1279

 国民精神総動員運動が開始されるのは昭和12年のことであるが、翌13年4月、「戦時ニ際シ国防目的達成ノ為、国ノ全力ヲ最モ有効ニ発揮セシムル様、人的及物的資源ヲ統制運用スル」権限を政府に与える国家総動員法が公布された。この法律は、国民徴用令(昭和14年7月)、賃金統制令(同15年10月)・生活必需物資統制令(同16年3月)・金属類回状令(同年8月)などの関係勅令の相次ぐ公布により、国民生活を全面的に規制してゆくこととなる。
 そしてこの国民精神総動員運動をその底辺において支える組織として、部落会や町内会・隣保班の整備が図られたことについては、第3章第1節の戦時体制下の行政で触れたが、函館市は、このような町内会組織の再編にとどまらず、「尽忠報国・挙国一致・堅忍持久」というスローガンに代表される国民精神総動員運動の市民レベルへの浸透を図るため、昭和14年1月、函館市出征軍人後援会(同14年4月、函館市銃後奉公会と改称)と共同で「市民戦時対応生活刷新実践要綱」を制定した。この要綱は、「第一 家庭精神に関する事項」、「第二保健衛生竝に心身鍛練に関する事項」、「第三 飲食に関する事項」、「第四 電燈・燃料に関する事項」、「第五 被服に関する事項」、「第六 住宅に関する事項」、「第七 家事・経済に関する事項」、「第八 社交・儀礼等に関する事項」、「第九 資源愛護に関する事項」、「第十 国家経済に関する事項」、「第十一 出征軍人・入営者に関する事項」、「第十二 人営及び応召軍人の家族に関する事項」、「第十三 傷病軍人の家族に関する事項」、「第十四 戦病死軍人の遺族に関する事項」、「第十五 皇民訓練に関する事項」という15項から成っているが、函館市出征軍人後援会との関係からか、第11項から14項までは、出征軍人、入営者、応召軍人・傷病軍人・戦病死軍人の家族・遺族に関係する事項で占められている。それ以外の各事項は、市民一般を対象としたものであるが、その多くは、日常の市民生活全般にわたって極めて詳細に規制を加え、そのことによって「全市民は益々自粛自戒、業務に精励し、隣保団結、市勢の伸張を図り、愈々国策に順応して皇国の大躍進に寄与せねばならぬ」との意図がこめられていたのである。
 いま、試みにその内容の一部を紹介してみよう。「第三 飲食に関する事項」には、次のような項目がある。

一、白米食を、胚芽米・七分搗米・半搗米、或は玄米食等に改めること。
二、副食物は安くて滋養に富むものを第一として選ぶこと。
三、献立表を作り、毎日の調理に行き当りばったり主義を改めること。
四、戦時中は特に間食をやめ、子供又は老人のために已むを得ないものには衛生上善いものを考へ、而も安価なものを選ぶこと。
五、洋酒並に輸入煙草の使用を慎み、紅茶・コーヒーその他舶来品は適当に制限すること。
六、牛・豚肉等の比較的高価なものの使用を節約して、安価な動物性食品(鰯 煮干 あら 内臓 脂肪等)を用ひ、体力の維持・増強に力めること。
七、肉の食べ過ぎにおちいらず、大いに野菜類を摂り、健康の増進と長寿法を講ずること。
八、酒・煙草の類は、今までより少くとも二−三割程度の節約をすること。

 これらの項目は、市民にその直接的「実践」を求めるというよりは、むしろ努力目標としての性格が強いようにも思わ
れる。それは、他の次のような項目の中によく現れている。まず「毎朝、神仏を拝し、国威宣揚を祈る」と共に、「各自、身を修め家をとゝのへ、日日感謝の念をもって働くこと」(第1)が求められ、「寝食に規律節制を励行」・「毎日適度の運動を行ふ」(第2)。「照明は適度にし」(第4)、「服装は簡素を旨とし、みだりに厚着をしない」(第5)。この他にも、「家屋の新築・改築・増築等は当分見合はせること」(第6)、「無計画・その日暮しの生活を改め、家計予算をたて、家計簿の記入を励行すること」(第7)、「人を訪問する場合には、お互に時間の空費を避けるため、要談を簡潔にすること」(第8)などの項目が挙げられている。
 ちなみに「実践要項」の第8項には、次のような項目もある。

一二、冠婚葬祭等に於て、余裕ある場合は進んで函館市出征軍人後援会・函館地方防空兵器献納運動或は社会事業団体等に寄附すること。
一三、鈴蘭摘・花見・紅葉狩などは、酒食を主とせず、体育的方法によりこれを行ふこと。

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