通説編第3巻 第5編 「大函館」その光と影 |
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第2章 20万都市への飛躍とその現実 第5節 躍進する北洋漁業と基地の発展 3 独占企業日魯の形成 三菱商事の合同案 |
三菱商事の合同案 P600−P602 露領水産組合の「助成会社案」が、拓務省の承認を受け、融資の認可が出る直前になって、突如6月23日三菱商事会長三宅川百太郎から、助成案とは全く対照的な合同案が組合側に提示された。いわゆる「三宅川案」と呼ばれたものである。三宅川案は、日魯漁業を含む露領漁業家41名全員、318漁区(鮭鱒296、蟹22)すべてを統合して新会社を設立し、仕込資金は、朝鮮銀行、北海道拓殖銀行、三菱商事の融資で賄い、販売を三菱商事が担当するという内容のもので、三菱と日魯を軸とした完全な独占企業を創設しようという案であった。 三宅川案の骨子をあげると、 一 合同のための新会社を設立すること 二 各漁業者は、漁業権や土地、建物、機械、船舶、漁具等の漁業用資産を現物出資として会社に提供してその評価額に応じた株券を取得すること 三 各漁業者の負債は一切新会社に継承せしめず、各自弁済すること 四 各漁業者より提供される権利及び財産の評価は、日魯漁業会社の資産評価額を標準として漁業者代表、露領水産組合、北洋協会及び債権者代表で組織した評価査定委員会が行い、以て新会社の資本金を定めること 五 新会社の要する仕込金は、新会社の権利及び財産全部と漁獲物全部を担保として、朝鮮銀行、北海道拓殖銀行及び三菱商事会社から借り入れること 六 新会社が製品販売社を指定する場合は予め前項融資3社の同意を求めること などである(前出『露領漁業合同記念誌』)。 しかし、この三宅川案は、多数の露領水産組合員から、大資本中心の合同案であり、中小露領漁業家を日魯と三菱の傘下に併合するものとして強い反発を受けた。このため、三宅川案の検討を要請された樺山資英露領水産組合長も、これを承諾することができなかった。 三宅川案に対する露領水産組合側の見解は、日魯を中心とする合同案では、組合漁業家は単に株主となるのみで自己の事業を失うこと、合同会社成立後新たな漁業家が出た場合その扱いに問題が残り、露領水産業の統制を乱す恐れがあること、樺山案(助成会社案)によれば、従来不当な条件に甘んじ仕込資金の貸し出しを受けていたものが、製品販売が全て共同販売機関に委託されて不当廉売が防止され、かつ貸出の担保となし得るので水産業の合理化になること、従ってこの際三菱側も大合同案を棄て露水組合案に日魯を参加させ、一致して露領水産事業の合理化に努力することを希望する、というものであった(前出『日露年鑑』)。 こうして「樺山案」と「三宅川案」とは全く対立し、双方歩み寄りがないまま両案は共に棚上げされた。一方は中小漁業家本位の助成会社案であるのに対して、他方は大資本中心の合同案であり、両者の立場には根本的な違いがあったのである。 |
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