通説編第3巻 第5編 「大函館」その光と影 |
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第2章 20万都市への飛躍とその現実 第5節 躍進する北洋漁業と基地の発展 3 独占企業日魯の形成 露領水産組合の露領漁業助成会社案 |
露領水産組合の露領漁業助成会社案 P599−P600 露領水産組合も、組合の立場から合同案を検討し、完全な合同と強固な統制を図ろうとしていた。しかし、露領漁業の現状や財界の動向を考慮して、全企業を一本化する企業合同を避け、日魯漁業以外の中小漁業家を糾合して新会社を設立し、株主である漁業家に必要な金融、資材購入、漁獲物販売等の事業を通じて中小漁業家の経営合理化を支援する「露領漁業助成会社案」をまとめた。会社設立の趣意書には、全組合員を網羅するのが希望であるが、「日魯漁業株式会社の如き大会社は現に内外有力なる資本の後援を有し且漁獲製造品の販売及漁業用品の購買並に船舶の運用等に於て既に合理的方法により経営せらるゝを以て同会社は現状に止め専ら中小漁業者の経済的合理化を考慮して立案したものである」と述べている(前出『日露年鑑』)。大企業日魯とは別に、中小漁業家中心にした合同を目指したのである。 この「助成会社」の資本金は、東洋拓殖株式会社と露領水産組合側が折半し、組合側の未払込出資金は、東洋拓殖会社からの低利融資で補填することになっていた。東洋拓殖株式会社は、日露戦争後に韓国の「資源開発・殖産振興」を目的に、主に政府の出資で設立された国策会社であったから、東洋拓殖会社の「助成会社」への出資は、国家の間接投資ということになる。東洋拓殖会社は、「絶対的大株主」として、全面的に助成会社の経営に参画し、また資金提供者の立場で、漁業家の経営を直接管理・統制する実権を持っていた。 助成会社は、直接漁業を営むことなく、漁業家に対する物資や資金供給、漁獲加工品の販売業務を事業とし、これらの利息、手数料等が会社の事業収入になるわけで、助成会社は、株主である漁業家の経営に対する経済支援を通じて、業界全体の統制と個別中小漁業家の経営合理化を図ろうとしたのである。 漁業家が融資を受ける場合に、あらかじめ漁区経営の事業計画と収支予算、漁業・製造加工用資材の購入品目と数量とその受渡期日、所用船舶のトン数、保険金などの調書を会社に提出することになり、これら調書の精査を受けた後、融資が行われることになっていた。 なお、貸付けの限度額は総経費の7割以内とされていた(露領漁業合同記念誌刊行会『露領漁業合同記念誌』、昭和7年)。 |
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