通説編第3巻 第5編 「大函館」その光と影


「函館市史」トップ(総目次)

第2章 20万都市への飛躍とその現実

第4節 戦間期の諸産業

6 倉庫業の変貌

1 営業倉庫

倉庫の定義

営業倉庫の概略

営業倉庫の概略   P533−P536

 日露戦争後、露領漁業、樺太、千島漁業が盛んとなり、函館港はその基地となる。営業倉庫もこれに応じて変った。それまでの営業倉庫の扱い品の多くは、塩干魚、昆布、鯣、貝類など海産物が多く、これに塩、米など、食料品及びその加工品が加わっていた。扱うのは、市内の有力商店であった。従って函館の営業倉庫の施設は、明治時代から、保管設備に金を掛けて貨物の荷傷みを防ぐ努力をしていた。主として商業資本のための倉庫業であった。
 日露戦争後、貨物保管施設に金を掛ける傾向が、いよいよ強くなる。明治44年、10年前の棟数127棟に比べ82棟を減じたが、坪数では1万3279坪と530坪増加した(表2−102)。『函館海運史』は、これを「営業倉庫として次第に完備したことを意味するもので、不燃質の本建築が増加したからである」と説明している。この時期に建設した煉瓦造倉庫が、現在の函館「西部」の歴史的建造物として尊重されている。
 大正から昭和初期、北洋漁業の最盛期になるが、この時期、営業倉庫(普通倉庫)は、施設が大いに増大した。明治44年、82棟、1万3279坪だった営業倉庫は、昭和9年、116棟、2万4601坪と坪数で85%増大し、新規業者も続出、また、自家用倉庫もまた著しく増加した。昭和初期の扱量は、ほぼ、50万トンと算定されている(表2−103)。昭和14年以降は発表禁止のため不明。
表2−102 明治44年の営業倉庫(普通倉庫)



  表2−103 昭和期営業倉庫の扱量
         単位:トン
年次
入庫
出庫
昭和9
10
11
12
13
14
485,293
469,026
508,100
497,655
不詳
495,110
480,644
451,541
496,635
513,878
不詳
451,488
『函館海運史』より
注)昭和14年は11月まで
T.業者別
業者
棟数
坪数
函館倉庫
藤野倉庫
金森倉庫
安田倉庫
竜紋倉庫
弁天倉庫
共栄倉庫
葛西倉庫
15
5
25
9
11
8
6
8
1,731
476
2,263
2,081
1,375
2,547
2,272
534
合計
87
13,279
U.建築種別
種別
棟数
坪数
煉瓦造
石造
板倉
上屋
51
2
10
19
8,852
145
1,730
2,552
合計
82
13,879
『函館海運史』より
 
 魚介類、その加工品(塩干物、缶詰など)米など、高価で変質し易い商品を保管し、海上運送の中継を特色としている函館港の営業倉庫は、堅牢な建屋で貨物を大切に保管することが第1の特色であった。第2の特色は、そのすべてが臨海倉庫であること、その第3は、その大部分が、函館駅から西部、つまり、在来の函館港海辺に立地していることである(図2−11)。函館山山麓の狭い傾斜地に立地する臨海倉庫群は、施設面で、広い荷扱場所を得られず、倉庫前に堀割を創り、艀をそこまで引入れて荷役をし、貨物を倉庫に運送していた。通常、海岸より30間(54、5メートルくらい)以内に立地する(函館税関『函館港港費調査書』)。30間以上の場合は、標準水切賃(陸揚賃)と同額の割増を支払わねばならないとされている。
 各倉庫は、それぞれ特定の上屋を持っていた(表2−104)。また、これらの質、量共に発展した理由は、恐らく、収益性だろう。明治42、43年度の益金が『函館海運史』に掲載されている(表2−105)。

図2−11 昭和11年の営業倉庫
業者名
位置
弁天倉庫(株)
小熊倉庫(株)
森倉庫
共同回漕店
金森商船(株)金森倉庫
安田商事(株)函館支店
浦田倉庫
及能倉庫
葛西倉庫
函館魚商卸売市場(株)
日本水産(株)函館倉庫
(株)佐々木倉庫
斉藤倉庫
佐竹倉庫
函館冷蔵(株)倉庫
橋谷(株)倉庫部
定温倉庫(株)
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
昭和11年『函館商工会議所年報』より
表2−104
大正15年4月現在各倉庫の上屋
名称
棟数
坪数
営業倉庫 小熊倉庫
森倉庫
金森倉庫
安田倉庫
竜紋倉庫
弁天倉庫
佐々木倉庫
葛西倉庫
田畑倉庫
浦田倉庫
3
2
1
3
2
2
2
2
2
1
372
95
275
518
150
349
726
144
93
50
小計
20
2,772
その他 市役所
税関
鉄道省
近海郵船
3
2
5
1
712
264
1,689
181
小計
11
2,846
合計
31
5,618
大正15年『函館港勢要覧』より
  表2−105 営業倉庫の益金
            単位:円
倉庫名
42年度
43年度
弁天倉庫
函館倉庫
安田倉庫
金森倉庫
藤野倉庫
竜紋倉庫
葛西倉庫
共栄倉庫
4,324
467
532
7,819
4,996
△487
2,000
9,100
10,388

1,185
9,678
5,463
5,000
5,000
2,400
『函館海運史』より
「函館市史」トップ(総目次) | 通説編第3巻第5編目次 | 前へ | 次へ