通説編第3巻 第5編 「大函館」その光と影


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第2章 20万都市への飛躍とその現実

第4節 戦間期の諸産業
1 函館の経済界

5 函館における銀行業の展開と金融事情

大戦前後の金融事情

支店銀行の設置

柿本銀行の設置と金貸会社の登場

本店銀行の増資と資金流出

地場銀行支店網の拡大と役員動向

大戦後の反動恐慌

百十三銀行と函館銀行の合併

金融恐慌下の函館

百十三銀行の道銀合併

金銭貸付業と漁業投資

金融界の1年

金融界の1年   P401−P402

 函館の金融界は年間を通してどのような動きをみせたのであろうか。大正14年の『函館商業会議所年報』から引用してみよう。1・2月は海産物の取引薄により資金の顕著な移動がない。3月は小額の漁業資金の移動をみるのみで金利は変動しない。4月半ばから下旬にかけては漁業資金調達のため高額の手形が出回り、金融市場は少々は活況を帯びる。海産物市況をはじめ一般市況の不振で内地に移送する荷為替の取組は少なかったが、漁業資金の融資が決まるのが早く、預金・貸出ともに出入が頻繁となり市場は活況を呈し、金融界も連動した。6月は樺太・千島方面の豊漁で出漁資金の調達に好材料を提供した。市場間の資金・手形の移動が多忙を極めた。7月は露領や樺太・千島出漁の資金調達は一段落を告げ、少々閑散であったが、中旬には近海のイカ漁が豊漁となり、金融界は繁忙を来した。8月は露領漁業の不成績で物資の追送資金の需要もなくわずかにニコラエフスクの秋鮭漁に要する仕込資金の需要があるのみ、さらに露領産塩魚および缶詰の回着が繁多になり、荷為替資金や倉入資金の需要が次第に増加した。9月は中国に動乱が勃発したが、その影響は軽微で、塩魚干鯣やその他の海産物は輸出され、荷為替の取組高が増加した。函館の組合銀行の貸出高は増加した。11月は海産肥料の安値等により鯣切揚資金の放出をみた。12月は鯣その他海産物の価格が下落のまま固定化し頻繁とならなかった。また一般商家の年末資金はさしたる需要もなく景気回復の曙光をみることなく越年した。
 このように函館の金融界は函館が漁業、とくに露領漁業を基軸に展開していることがわかる。それは漁業経営への直接的な融資のみならず、漁業者への仕込みを行う商業者への融資もあったろうし、函館に集荷されてきた漁獲物への流通資金としての融資も大きな比重を占めていた。しかし漁業への融資では露領漁業の経営規模が年々大規模化して企業経営の形態に移行し、さらに国策による合同化の趨勢が強まると、それに要する資金高も膨大なものとなり、地場銀行の対応範囲を越えていくのであった。それが地場銀行が昭和初年で函館から姿を消していくことの一因ともなった。
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