通説編第3巻 第5編 「大函館」その光と影


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第2章 20万都市への飛躍とその現実
第2節 水電事業市営化問題
2 坂本市長時代の水電問題

新たなる展開

買収交渉開始

市民運動の展開

鶴本徳太郎の指針

水電会社断線を強行

市民運動の展開   P263−P265


市民講座で後援する市長(昭和8年2月5日付「函日」)
 就任以来4年がたち交渉が頓挫している水雷買収問題について、坂本市長は、今日までの経過報告を市民講座という名目で直接市民に訴えることにした。2月6日の市民館での第1回を皮切りに、市内11か所、湯川村、上磯町でも行なわれた市長の講演の大要は、「買収価格の隔たりは市民大衆の理解と後援により解決される問題で、報償契約により買収することが将来市の福利」となり、自らは「市民二十万人の支持により飽く迄この問題に奮闘死力を尽くす」(昭和8年2月6日付「函毎」)というもので、経過報告であると同時に、報償契約により事業買収を進める決意表明と市民の一致した支持を要請するものであった。
 しかし市長の意図とは異なり、市民は買収よりも電灯動力料の値下げ運動の方へと傾いていった。市会で一派を形成する昭和倶楽部が、市長へは「市会満場一致の電灯動力料値下の即時適当なる処置」を、函館水電へは「市会の決議を尊重し速やかに値下を断行すること」をそれぞれ決議し、さらに「坂本市長提示の買収価格には賛成できない」「市民を扇動する様な言動は慎むべき」との声明を発表した。他にも無産市民の利益伸長を掲げる社会大衆党函館支部は、市民大会を開催して「電灯料三割、動力料三割五分値下げ」を決議し、市会議員、会議所議員、各町正副組長ら80人余が出席して開催された「電灯料値下市民権益擁護期成同盟会」(会長坂本作平、副会長桶正義・泉泰三)では、電灯料2割・動力料2割5分値下、報償契約の履行を満場一致で可決した。その後この期成同盟主導の町民大会が続々と開催された。また、「電気料値下市民権益擁護期成同盟会の運動を極力応援しその目的の貫徹を期す」(3月12日付「函毎」)ことを宣言した有志者による水電膺懲(ようちょう)連盟も結成された。これほど電灯動力料金の値下げを望む市民の声が大きくなったということは、電気が市民生活に浸透していたことの証明ともいえるだろう。
 この期成同盟は、期限(3月25日まで)付き要求書への会社側からの回答がなかったのを機に、市民に対し、(1)電気料は値下げ分を支払うこと、(2)集金人がこれを承諾しない場合は支払いを待ってもらうこと、(3)会社が電気を止めた(断線)場合は期成同盟へ通知することなどを記した急告文を配布した。このことが結果的に電気料滞納者を増やすことになり、会社側に対抗手段をとらせることとなるのである。
 その後も膺懲連盟および期成同盟会主催の演説会が市内各所で開催され、「市民結束の下に函館水電と抗争すべし」として、逓信大臣、内務大臣、札幌逓信局長宛の陳情書2万3600余戸分が提出された。この年の函館市の戸数は4万2117戸(『函館市史』統計史料編)で、陳情書提出戸数はその約56パーセントに当たった。
 水電側は、4月17日の大株主会で、値下げ問題は逓信当局に交渉すべきで、会社に直接交渉すべきでないとの見解を表明、直後、市内約6000戸の電気料滞納者に断線を通告した(4月20日付「函毎」)。
 一方、市会も、報償契約による水電買収に関する訴訟を提起することを出席議員全員の賛成で可決した。函館市と函館水電(株)は法廷の場で報償契約の効力を争うことになったのである。函館市は対決の姿勢を鮮明にしたといえる。函館市が東京地方裁判所に権利関係確認を提訴したのは4月28日だった。
 膠着状態のまま6月、函館水電は、株主並び市民に対して、「報償契約による買収は、報償契約自体の効力の有無についての協議が整わなかったのであるから、報償契約に基づいた価格で事業を市へ売買譲渡することには応じられず、報償契約に関する権利確認訴訟は、法廷の場で会社の立場を主張する。電気料値下げも、昭和7年12月1日改訂認可の現行料金が他社と比べて不当高値とはいえない」旨の声明書を発表した(8年6月7日付「函日」)。
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