通説編第3巻 第5編 「大函館」その光と影


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第1章 露両漁業基地の幕開け
第3節 露領漁業基地の展開
2 日露漁業協約の成立

漁業協約交渉

協約の内容

漁業関係者の陳情

漁業関係者の陳情   P157−P158

 なおこの漁業協約締結交渉に先立ち、先の函館の北海産業合資会社をはじめ、ニコラエフスク在住の貿易商島田元太郎、函館の沿海州出漁者(永野弥平ほか42名)、函館商業会議所会頭岡本忠蔵らが、それぞれ要望事項をまとめて外務大臣に提出している。これらの要望書には、当時の露領漁業者が抱えていた問題や状況が示されていて興味深い。ここでは函館の露領漁業関係者(漁業者、仕込み商人)を網羅している函館商業会議所の建議書(明治38年12月27日外務大臣桂太郎宛)を紹介しておこう。
 建議書の前書きには、日露講和条約によって「沿海州ノ漁業ニ対シテ彼我共ニ均等ノ権利ヲ有スルコトト為リタルノ観アレドモ之ニ関スル協定ハ頗ル深大ノ考慮ヲ要スルモノト信ズ蓋シ彼我権利ノ範囲明劃ナラザレバ紛争ノ醸シ易キノミナラズ露国ニシテ我漁業者ニ対シ擅リニ法令ヲ設ケ得ルトセバ我ハ実際ニ於テ漁業ノ利権ヲ収ムルコト能ハサルノ虞アレバナリ」とあり、協約交渉当時者に戦前の露領漁業の実情を踏まえた対応を要望している(前掲「日露漁業協約締結一件」)。

        露領沿海州漁業権協定ニ対スル要望事項
一 日本人ノ漁業権ハ露国人ト均等ニシテ漁獲及製造ノ権利ハ露国人ト同一ノ条件ニ依リ之ヲ許可スルコト但漁夫ハ日本人ヲ使役スルコト。
二 漁業権獲得方法ハ日露両国政府ニ於テ抽籤ヲ以テ均等ニ彼我ノ漁業区域ヲ定メ本邦人ニハ我政府ヨリ適当ノ方法ニ依リ許可スルコト。
三 河川漁業ハ何レノ河川ヲ問ハス五十噸以上ノ帆汽船ニシテ自由ニ出入シ得ルモノハ河身ニ或一定ノ区劃ヲ設メ其下流ニ於テ漁業ヲ許可スルコト。
四 漁業期限ハ長期トシ尠クモ拾ケ年ヲ下ラサルコト。
五 漁業ノ方法ハ日本式建網引網ヲ使用スルコト。
六 漁獲物製造処理ニ要スル場所即チ漁業上必須ノ家屋、塩切場、倉庫等ノ建設ニ要スル地所ハ漁業権ニ附帯シテ無料使用ヲ認許スルコト。
七 総テ漁獲製造物ニ制限ヲ付セサルコト。
八 漁場ニ必要ナル木材及薪材ノ伐木ヲ認許スルコト。
九 沿海州港湾及河川ニハ自由ニ本邦船舶ノ出入ヲ許可スルコト。食料品、飲料水其ノ他必要品ヲ得ル為メ沿海州ノ諸港湾及河川ニ本邦船舶ノ適宜出入スルヲ得セシムルヲ要ス。
十 漁業ニ附帯シテ地方村民ニ物資ヲ供給スル一種ノ貿易ヲ認許スルコト。
十一 漁業ニ関スル各種ノ税目ヲ廃シテ単ニ漁業免許料ニ止ムルコト。
十二 漁業免許料ハ之ヲ期間ノ年次ニ分配割付シ(例ヘハ借区期限拾ケ年ヲ一期トシ漁業免許料五千円ト仮定スレハ一ケ年毎ニ五百円宛ノ如シ)且ツ納税期ハ毎年終漁ノ時ト定ムルコト。
十三 関税ハ漁場ニ使用スル食用品並ニ漁具等一切無税タラシムルコト
十四 露国ニ於テ漁獲シ且ツ製造シタル海産物ハ露国ニ需要サルルト外国ニ輸出スルトヲ問ハス一切関税ヲ課セサルコト。
十五 日本政府ヨリ出漁者ニ下附シタル海外旅行免状ニ対シテハ爾今露国官憲ノ認証(裏書)ヲ要セシメサルコト及健康証ノ効力モ同様之ヲ承認セシメルコト。
十六 沿海州枢要ノ地ニ日本領事館ヲ設置スルコト。
十七 露国ニシテ将来沿海州ノ漁業ニ関シ新ニ法令ヲ設定スル場合又ハ我国ノ該漁業ニ関シテ有スル利益ヲ減殺スルノ結果ヲ生スヘキ条約ヲ第三国ト締結シ若クハ第三国民ニ同漁業ヲ許可セントスルトキハ予メ我国ノ同意ヲ得セシムルコト。

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