通説編第3巻 第5編 「大函館」その光と影


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第2章 20万都市への飛躍とその現実

第5節 躍進する北洋漁業と基地の発展

3 独占企業日魯の形成

露領漁業の大合同

露領水産組合の露領漁業助成会社案

三菱商事の合同案

北洋合同漁業会社と日魯の合併

露領漁業の大合同   P598−P599

 昭和3年の日ソ漁業条約の成立は、日ソ間の安定的な漁業関係の展開を期待させた。しかし、ソ連側では、国営企業の優先的漁区取得やコオペラチブ(協同組合)、個人企業の積極的漁場進出を進めたため、日本側の優良漁場は次第に失われ、日本漁業者に対する圧力は年ごとに増大した。
 こうした状況の下で、関係業界はじめ各界の中には、ソ連側の攻勢に対抗するには、露領漁業者が一致団結して政府の対ソ漁業交渉を支え、同時に、露領漁業の統制と経営の合理化を図るために、全露領漁業者を結集した企業合同の実現を求める動きが表面化してきた。
 昭和5年3月22日、工船蟹漁業水産組合長岩倉道倶、帝国水産会長村上隆吉をはじめ多数の漁業関係者が出席して「北洋漁業座談会」を開催し、次のような決議を行った。

           決議
 北洋漁業を打つて一丸となし、半宮半民の法人を設立せんことを期す
           理由
 吾が露領漁業権は日露戦争の結果ポーツマス条約に依り獲得したる全国民の権益なるを以て之が維持伸展に関しては挙国一致に当らざる可からず。然るに日露漁業条約締結僅かに二年を出ずして既に彼我の位置顛倒せんとするに至れるは、是れ一に彼に一貫せる国策あり、我が権益を根底より掃蕩せんとする状顕著なるものあるに反し、わが官民に確固たる対策なきに職由せずんばあらず、故に此際当業者は先づ此経済困難に覚醒し、大同団結の実を挙げ以て此国権の進展に努力すべきものと認む
                                                    (『日露年鑑』昭和6年版)

 この決議書は、政府当局、ならびに露領水産組合に送られた。また座談会では、北洋漁業の発達と漁業権確保のための活動を行う常設機関として北洋協会(社団法人)の設立を決めている。この協会は、露領漁業の合同に直接関与していないが、昭和5年の第58回帝国議会で審議され、「速に水産国策を樹立し北洋漁業権の確保…を望」んだ、いわゆる「水産国策樹立建議案」の議決をはじめ、北洋漁業権益擁護、漁業合同問題などの世論形成に大きな役割を果たした。
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