通説編第3巻 第5編 「大函館」その光と影


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第2章 20万都市への飛躍とその現実

第4節 戦間期の諸産業
3 工業化の進展

1 工業界の概況

工場数、工業会社数

職工数

電力の需要・供給状況

生産額(品目別、業種別)

物価の動向

市民所得に占める工業の地位

物価の動向   P439−P440

 生産額を検討する前に、この期の物価水準をみておく。前章の図1−1(→驚く工業生産額の伸び)で、大正元年から11年までの物価指数をみたが、急上昇のピークは9年で、10年からは反転下落して、10、11年と横ばいであった。これに接続するのが図2−5である。図2−5では大正8年から調査に採用した50品目を備考に書かれている通り、生産地と需要地を基準にして3類に分類してある。この3者の動きをみると、10年以降は3類(本道産で市内消費)が最も高い水準で動き、1類(府県より供給で道内需要)と2類(本道産で府県へ供給)は、相互にからみ合いながら1類より低い水準で推移する。そして3者とも12、13年とやや上昇している。大正14年から昭和4年までの指数(『函館市史』統計史料編)は、大正11、12、13年の3か年平均価格を基準とすると、大正14年112、昭和元年98、2年92、3年91、4年89である。これを昭和4年12月基準で作成したのが図2−6で、昭和元年から5年までの動向をみることができる。これによっても、本道産の価格水準は昭和4年まで府県産より高い。そして5年では3者ともに同一水準となる。
図2−5 大正9年〜13年(月別)の物価指数の動き

大正13年『函館商業会議所年報』より作成。
注)出典には以下の備考がついている。
1 本表ハ大正元年一月ノ函館市価ヲ基準トシテ算出シタル指数ナリ
2 第一類ハ府県ヨリ供給ヲ受ケ本道二需要スル内外国米、麦酒、醤油、味噌、食塩、茶、砂糖、鰹節、小麦粉、煙草、甲斐絹、綿ネル、木綿綿糸判綿、麻縄、半紙、洋鉄、鉄釘、硝子、燐寸、石油、縄、筵等二十六種ノ平均ナリ
3 第二類ハ本道内ノ産出二係り府県へ供給スル塩鮭、鱒、筋子、身欠鰊、乾鱈、鯣、昆布、大小豆、豌豆、澱粉、鰊粕、魚油、木材、石炭、硫黄、セメント、人造肥料等十八種ノ平均ナリ
4 第三類は本道内に産出し主として市内に消費する麦酒、牛肉、鶏卵、漬物、木炭、薪六種ノ平均ナリトス
図2−6 昭和元年〜9年の物価指数の動き

昭和9年『函館商工会議所年報』より作成。
 以上の通り、大正10年から昭和5年までの3類別の価格の動向を通観して、調査品目は少ないものの本道産市内消費の生産品の価格が高位に推移したこと、一方で府県産は割安に移入されたことを考慮すると、市内の工産品生産が比較的に有利であったと推論できよう。他方で、賃金の動きは前章の図1−1でみる通り、物価の騰貴におくれて上昇して、大正9年には物価の上昇に追いつき、10年からは物価の下落とは逆に10年、11年と上昇を続けている。そして、『函館市史』統計史料編の業種別賃金表によっても、12年以降昭和5年にいたるまで一旦上昇した個別の業種賃金額は低下していない。なお、大正9年までの函館郵便局の貯金受払状況について「大戦中ノ六年以降金額が累進的二増加ヲ示セルハ…時局ノ好転ニヨル下級社会ノ収入増加シ生活ノ安定ヲ得タルニ依ルナルベシ」(「戦後ニ於ケル函館区商工業ノ現況」北海道大学附属図書館蔵)とあることとあわせて、需要の強さが工業化の進展をおし進めたことを知り得る。
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