通説編第3巻 第5編 「大函館」その光と影


「函館市史」トップ(総目次)

第2章 20万都市への飛躍とその現実

第4節 戦間期の諸産業
1 函館の経済界

4 函館商工会議所の成立

函館商工会議所の設立

会議所定款の変更

函館商工会議所定款

函館商工会議所の活動

戦時下の商工会議所

会議所と連合組織

第8回道会議所連合会

道会議所臨時会

函館商工会議所の活動   P372−P376

 
 これまで、函館商工会議所の定款を中心にその内容の紹介と変遷について述べてきたが、次に商工会議所としての活動の実態に触れてみよう。まず表2−35は、昭和3年度末現在での函館商工会議所議員の一覧であるが、函館という都市の特殊性からして、海運業や海産物商出身の議員が多い点に1つの特徴がある。次に、会議所の対外活動、渉外活動の一端を明らかにしてみたい。会議所の照会・応答業務は、定款に定める事業の1つであるが、いま内国の文書収受および発送数の推移、同じくその内訳の推移、外国向け文書の推移を一括して示すと表2−36のようになる。
表2−35 函館商工会議所議員(昭和3年度)
 
氏名
職種
備考
議員 坂本作平(会頭)
岡本康太郎(副会頭)
有江利雄(常議員)
宮本武之助(常議員)
小熊新三郎(常議員)
瀬崎初三郎(常議員)
林豊三郎(常議員)
前田嘉左衛門(常議員)
高村善太郎(常議員)
寺尾庄蔵(常議員)
渋谷源吉(常議員)
石塚弥太郎
市田亀次郎
荻野清六
神永貞助
小島清吉
斉藤友二郎
佐々木玄吉
酒井権十郎
坂井定吉
佐野鎮治郎
斉藤忠
下田長之助
杉村福松
鷹田元次郎
谷徳太郎
谷藤巳之松
竹内新太郎
辻才次郎
浜崎金助
浜岡平八
橋谷甚右衛門
林豊三郎
秦茂三
藤山四郎
細谷伴蔵
松田季蔵
目黒徳次郎
山崎松次郎
山口楽平
和田芳治郎
米雑穀船舶漁業
漁網漁具船具諸器械商
鉄工業
運送金銭貸付業
倉庫業
木材土木建築請負
酒類缶詰雑貨商
海陸物産商
海産商
海陸貿易業
土木建築請負
海陸物産商
酒類雑貨商
百貨店
和洋家具商
砂糖麦粉菓子商
木材建築業
海運業
木材商
海運業
硝子電気器具機械商
薪炭商
旅人宿業
海陸物産商
運送請負
海運業
海産商
土木建築請負
製材業
質屋業
木材土木建築請負業
米穀問屋業
酒類缶詰雑貨商
紙文具商
木材土木建築請負
海陸物産商
海産物問屋業
鉄工業
船舶海運漁業
雑穀商
米雑穀問屋業
小川合名
函館製網船具(株)
(株)有江鉄工所

小熊倉庫(株)










帝国製菓(株)

合資共同回漕店

常盤汽船(株)

北海薪炭合名



函館海運合資












山崎汽船(株)

顧問 北村正雄
吉岡熊雄
岡本忠蔵
平塚常次郎
大塚巌
渋谷金次郎
西森猷太郎
渡辺孝平
函館運輸事務所長
函館商業学校長
肥料雑穀海産商
日魯(株)専務取締役
函館船渠(株)取締役
第一印刷(株)専務取締役
函館税関長
海運倉庫船具漁具諸機械商
 
表2−36 函館商工会譲所の渉外活動
区分
内国
内国内訳
外国
年度
収受
発送
合計
商工業に関
する調査
官公庁への
諮問その他
その他
収受
発送
合計
昭和2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
5,850
6,646
6,467
5,256
6,070
7,474
7,928
6,229
8,511
7,179
7,304
6,873
4,802
4,398
4,434
3,151
28,432
28,247
25,005
22,783
23,573
13,080
17,121
15,206
12,024
11,961
13,924
16,517
19,973
17,775
19,886
13,563
34,282
34,893
31,472
28,039
29,643
20,524
25,049
21,435
20,535
19,140
21,228
23,390
24,775
22,173
24,320
16,714
15,867
7,514
13,709
11,209
13,811
7,169
10,195
7,183
6,895
5,842
5,952
6,867
6,071
3,742
1,354
735
907
158
3
3
1,219
1,182
1,403
1,120
1,203
1,023
1,128
1,098
1,629
1,063
616
679
17,508
27,221
17,760
16,827
14,613
12,173
13,451
13,132
12,437
12,275
14,148
15,425
16,736
17,368
22,350
15,247

(内・

47
1,320
86
126
108
86
90
72
38
39
56
82

外の別

140
2,790
48
50
55
39
40
28
15
20
22
34

なし)

187
4,110
134
176
163
125
130
100
53
59
78
116
53
『函館商工会議所事業成績報告書』各年度より作成。ただし、3、7、9〜12年は『函館商工会議所年報』。
注)昭和17年度の内国の合計には、外国の53を含む。
 内国向けの文書は、発送が常に収受を上廻っているが、両者の合計は、昭和2年度を最高にして徐々に低下し、昭和10年代では2万2000件前後で推移している。その内訳をみると、昭和前期には商工業に関する照会・往復が全体の40パーセント台を占めているが、同10年代に入ると急激に低下して20パーセント台となり、太平洋戦争の開始後は5パーセント前後に急落している。これは、戦時体制の進行に伴なう経済統制の強化によって、一般的な商工業活動が著しく制限されるようになったことと無縁ではない。このことに関連して、外国向けの文書の往復は、昭和6年度を例外として、他の年度は200以下である。そして、最初は発送が収受を上回っているが、やがてその関係は逆転する。
 ではどのような国々との関係が深いのであろうか。昭和5年度では、米国、英国、ドイツ、同6年度でもドイツ、米国、英国、カナダといった諸国が上位を占めているが、昭和14年度の場合には、「支那」が文書収受39件中の15件を占め、文書発送でも、20件中12件を占めている。このように、日中戦争の開始にともなって、この函館商工会議所においても、中国との関わりが強まってゆくのである。
 では、より具体的な会議所活動を取りあげてみよう。昭和2年度に会議所が官庁に対し「商工業ノ利害ニ関スル意見」として提起したものは、次のような問題であった。

(1)、水産試験場設置に関する件
(2)、港内沿岸浚渫の速成に関する陳情
(3)、市内電車軌道の舗装に関する件
(4)、函館桟橋繋留中の連絡船と一般電話加入者との通話を可能ならしめること
(5)、函館駅構内改良工事を速かに完成させること
(6)、対露漁業権の確保に関する件
(7)、中国における日貨排斥運動に関する件
(8)、航路標識増設の建議
(9)、函館青森間の貨車航送貨物賃率低減方の件
(10)、函館、青森両地の無線電信所を開放し、一般通信に利用せしむる件
(11)、海岸無線電信局の設置に関する件
                                     (昭和2年度『函館商工会議所事業成績報告書』)

 これに対し、昭和13年度中に函館商工会議所が、「商工業ニ関スル法規ノ制定改廃施行ニ関スル意見」として官庁に具申したのは、

一、函館工業学校に採鉱科設置方陳情の件
一、函館桟橋駅構内に商品陳列場設置方陳情の件
一、港務部設置方陳情の件
一、商店法適用除外区域指定方陳情の件
一、軍需品受注に関し陳情の件
一、ソ連当局の査證拒否に関し陳情の件
一、家庭用石炭価格引下方陳情の件
一、石炭価格及び需給調整に関し陳情の件
一、時局に関する経済的施設に商工会議所参加要請の件
一、中小商業者融資条件の緩和方要望の件
一、物資需給調整並に物価に関する施設に商工会議所参加要望の件
一、日本商工会議所内に商工相談所総合連絡機関設置要請の件
一、青函間貨物輸送力拡大方陳情に関する件
一、物資統制、原料配給に関し陳情の件
一、綿製品特殊配給機関に関し電報要請の件
一、高等工業学校設置方陳情の件
一、貨物用空車増配並に緩和方陳情の件
一、火災保険料率低減方陳情の件
一、配給石炭欠乏に関し陳情の件
一、日ソ漁業条約問題に関し陳情の件
一、日本海産物販売会社設立留保方陳情の件
一、商工会議所法改正促進方要望の件
                                    (昭和13年度『函館商工会議所事業成績報告書』)


昭和13年度『函館商工会議所成績報告書』
といった問題であった。この両者を較べてみれば、戦時体制の進行が商工会議所の活動にさまざまな影響を与えていることが明らかである。そのような流れの中で、商工会議所法の改正促進問題が浮上してきたが、その主な理由としては、物資動員計画の実施による官庁関連の事務量増加によって会議所本来の機能が果たせなくなり(表2−36参照)、国策に協力するためにも会議所法の改正は「焦眉ノ急」であるとされている。
 この問題は、翌14年度にも、北海道商工会議所連合会の意見として、「適当ノ方法ニ依リ会議所ニ経済行政ニ参与スルノ権限ヲ付与スルコト」等を中心にまとめられている(昭和14年度『函館商工会議所事業成績報告書』)。しかし、それが具体化するのは、昭和18年3月の商工経済会法公布により、同年9月に函館をはじめ道内各地の商工会議所が解散し、商工経済会の函館支部として再編されてからのことであった。
「函館市史」トップ(総目次) | 通説編第3巻第5編目次 | 前へ | 次へ