通説編第3巻 第5編 「大函館」その光と影


「函館市史」トップ(総目次)

第2章 20万都市への飛躍とその現実

第4節 戦間期の諸産業
1 函館の経済界

3 外国貿易の様相

戦後の貿易と日貨排斥

貿易通信網の確立

昭和恐慌下の函館の貿易

飛躍的な輸出増の波

主要貿易品の交替

中国商人の動向

飛躍的な輸出増の波   P357−P360

表2−32 函館港主要国別輸出入額
                                    単位:千円
国名
昭和7
8
9
10
11
12
13
輸出 イギリス
ロシア
関東州
中国
オーストラリア
ベルギー
フランス
満州
オランダ
ドイツ
エジプト
ギリシア
スウェーデン
アメリカ
ハワイ
フィリピン
英領海峡植民地
デンマーク
蘭領インド
香港
イタリア
シャム
2,159
7,764
421
142
179
280
507
3
228
196
16


208
16
124
21

78
13
99
131
4,353
8,153
866
356
78
321
2,676
10
180
227
54


98
38
272
362

226
82
153
201
13,445
7,374
952
1,531
285
560
76
14
349
874
55
53
56
1,315
47
254
471
9
253
301
217
169
9,457
8,145
1,376
1,774
442
862
934
41
398
752
64
44
69
788
23
270
448
39
116
488
34
163
23,943
7,815
1,509
2,584
160
935
834
74
475
730
108
60
67
695
71
99
203
4
111
288
2
866
20,003
7,598
3,647
921
1,296
1,421
1,018
169
626
521
187
41
168
1,041
79
295
185
257
42
224
5
107
24,918
8,674
2,978
1,468
1,321
1,087
1,041
655
617
445
256
239
175
167
109
82
74
60
30
17
6
4
輸入 ロシア
カナダ
アメリカ
関東州
エジプト
英領インド
満州
オーストラリア
中国
イギリス
英領ボルネオ
フランス
英領海峡植民地
ベルギー
蘭領インド
オランダ
スペイン
クリスマス島
13,201
4
1,039
518
216
52
2

103
837
29
5

28
142

318
149
13,459
17
1,240
610
206
301
1

214
197
21
4
213
43
91
168
440
197
15,259
2
923
971
226
2
1
202
63
206
106
2

165
12
515
309
327
14,627
4
551
553
436
2
8
31
10
299
98
1
24
296
19
1

470
15,309
2
446
648
101
185
6

17
190

1
62

6


108
15,182
90
627
753
112
2
142
161
11
113

161
235


1

17,507
1,226
832
829
568
426
212
80
18
10
1






『函館市史』統計史料編より作成
ロシアの大半は漁業貿易
−は単位未満もしくは0
英領海峡植民地は現在のシンガポール・ペナン・マラッカ,蘭領インドは現在のインドネシア
 昭和7年にはいると前年の金輸出再禁止措置が対外為替の低落をもたらし、輸出は回復基調をみせ、また一般物価も高騰して次第に活況を呈し、輸出額もやや上昇傾向をみせたが、輸入は減少し、輸出入総額では前年の水準を若干上回る程度であった。なおこの年に樹立された満州国への輸出も少額であるが函館から行われ、昆布、塩鱒、鯣、貝柱、海参および乾鱈等の新たな市場を獲得した。
 昭和8年以降は日本の景気回復とあわせて函館港の輸出は激増の一途をたどった。とりわけイギリス向けが大半の缶詰輸出が函館の輸出額を大幅に増加させ、輸出総額の70%以上を占めた。これらの背景には露領漁業を経営する大手会社の大合同、母船式鮭鱒漁業の発展、北千島鮭鱒漁業の進展といった生産側の規模拡大と日本の金本位制停止による為替相場の下落により円安となり輸出環境が優位になったことがあげられる(表2−32)。
 また7年の日満経済ブロックの形成以降、満州向けの輸出が増加しはじめる。満州への直接輸出のほかに、満州への中継地であった関東州への輸出が大きく伸びている。なお函館市は昭和期に入ると貿易振興、市場拡大を目指して地域経済界の協力のもとにさまざまな対策に乗り出すが、その顕著なものに、経済視察団の派遣と海上見本市船の運航とがあげられる。こうした動きを表2−33にまとめたが、満州、朝鮮、東南アジアといった新市場への関心が強いことがみてとれる。またかつての函館の貿易の中枢をなす対中貿易は、12年に日中戦争が勃発すると中国南部・中部への販路が断たれたため会議所が中心となり北部への市場の開拓を集中させ販路の回復等に尽力し、その対策の1つとして「北支直通航路ノ開設方ヲ陳情」するとともに南京の新政権に対する対策を練り、所員を派遣し中国中部や南部の経済視察を行っている(昭和13年度『函館商工会議所事業成績報告書』)。なお、円ブロックにおける函館の貿易は10〜20%(『北海道対円ブロック貿易統計』)を推移しており、全国的な貿易傾向からみるとやや異質な点を持っていたが、それは缶詰主体の貿易港という面が強かったからにほかならない。
表2−33 函館の経済界等による海外視察
年月
事項
明治44.4
岡本忠蔵函館商業会議所会頭、[朝鮮]を視察
大正3.3
日本郵船主催「函飽実業家支那視察団」が対中国貿易振興のため[上海、漢口等]を視察(小熊幸一郎、石垣隈太郎、岡本康太郎、加賀与吉、阿部覚治、潘渚等参加)
.7
甲野日本郵船函館支店長、[台湾]において貿易状況を視察
5.1
道庁の海産物海外販路調査のため[台南、台北等]に調査員を派遣.函館海産商同業組合は調査を委嘱する
4.−
堤商会堤清六、[サンフランシスコ]万博に鮭缶を出品.アメリカの缶詰産業を視察
8.−
函館地蔵町の呉服商加藤兵次郎、商業視察のため翌年にかけて欧米諸国を一巡
14.3
函館海産商同業組合主催[満鮮支]視察大旅行団(前田嘉左衛門函館海産商同業組合長、海産商杉村福松、小川合名会社、市議泉泰三、漁業家阿川才三らが参加)
.8
道庁・全道商業会議所主催.極東露国視察団.函館市は市議の藤村篤冶,岡田健蔵にウラジオストク・極東ロシア]産業調査を委嘱.函館市嘱託杉村大造随行.杉村は [満州里、ハルピン]を視察
昭和2.1
日魯漁業会社の平塚常次郎常務取締役・外山総務部長は[基隆、台南、台北、高雄]で塩鱒の貯蔵・台湾塩の視察を行う
3.3
函館市主催、「南支及台湾視察団」が貿易振興のために[香港、広東、基隆、台南]を視察(市議阿部覚治、函館市港湾課杉村大造、日魯社員、貿易業者らが参加)
.9
函館市長佐藤孝三郎、[樺太の豊原、真岡]にて港湾・産業視察
.9
函館市長佐藤孝三郎・市会議長松下熊槌、[台北、高雄〕にて台湾産業及び港湾視察
4.1
岡本康太郎函館商工会議所副会頭、欧米産業視察[米、英、仏、独]
.−
函館海産商同業組合・函館商工協会が[朝鮮]で販路調査
5.5
函館商工会議所[北鮮地方]視察団を組織、産業視察を行う
.6
函館海産商同業組合、大連見本市(満州輸出組合主催)に米田書記長を派遣
6.5
函館商工会議所理事小林貞一、[大連]で開催の港湾協会大会に出席.満州を視察
7.1
道庁・函館市共催、南洋巡航見本市[台湾、南洋諸港]
.3
函館商工会議所常議員前田嘉左衛門、満州国建国に伴い事情調査のため派遣される
.7
函館市主催、第3回海上巡回展覧会[北鮮]弥吉助役、杉村主事ら150余名の視察団員が乗船
8.1
道庁主催、第2回巡航見本市[南洋].函館商工会議所書記の長谷川己義が参加
.7
函館市主催、第4回海上巡回展覧会[南鮮、大連].杉村函館市産業課長参加
.−
日魯漁業堤清治郎、[欧米]視察
10.11
函館市長坂本森一、雄羅鉄道開通式参列視察[清津、新京、雄基、羅新、京城]
11.5
函館海産商同業組合斉藤栄三郎組長、道庁主催の取引懇談会に出席のため[大連]に出張[満州]を視察する
.8
函館市議視察団7名、日本海臨海主要港へ港湾施設並びに産業情勢の視察を実施[元山、城津、清津、羅津、牡丹江等]
12.8
函館市主催、北鮮見本市[雄基、羅津、清津]函館産の家具、建具、菓子、ゴム製品、水産加工品等が出品される.杉村函館市産業課長と出品業者4名が参加
.11
道庁主催、北海道見本市が[ハルビン、新京、大連]で開かれ函館海産商同業組合斉藤栄三郎組長、大川原善蔵、仲三郎らの海産商及び日魯社員梅田重兵衛が参加.北支貿易事情調査の事務を道庁から委嘱される.
.11
函館市北支経済調査団、[大連、天津、北京、奉天、釜山、京城]へ派遣(市議山崎松次郎、岡田幸助、木島松蔵、国産製菓社長加藤昇、橋谷商会東善松、日魯会社高久彰、市産業課長杉村大造)
13.7
函館市議視察団、北支、中支の「商権扶殖」のための視察を2班に分かれ実施.[北京、天津、徳州][上海、南京、蘇州]
.8
函館商工会譲所議員佐野鎮次郎、[仏領インドシナ]へ.経済事情の調査にあたる
.10
函館市主催、北鮮見本市[雄基、羅津、清津、城津]
出典:『海外販路調査視察報告(其一)(其二)』、『台湾販路調査報告書』『対支輸出海産物に就て』『極東露国及北満視察復命書』『函館市主催南支及台湾視察報告書』『南支那及台湾に於ける海産物取引事情』『満州国視察復命書』『中支経済視察記」『函館商業(工)会議所事業成績報告書』『函館海産商同業組合業務成績報告』『函館市史年表草稿』「函館毎日新聞」「函館日日新聞」『風雪の碑』「北海道第1期拓殖計画事業報文」(『新北海道史』第8巻・史料2所収)『函館区公報』『函館市公報j『函館市事務報告』
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