「函館市史」通説編3　5編1章3節-3

通説編第3巻　第5編　「大函館」その光と影

第1章　露両漁業基地の幕開け
第3節　露領漁業基地の展開
3　日露戦争終結後の出漁状況

明治39年の出漁

明治39年の出漁　　　P159－P160

　日露講和条約が締結され、日本人漁業者は、沿海州からオホーツク海沿岸、そして東西カムチャツカ半島に至る、広大なロシア極東沿岸水域において、合法的に漁業を営むことができるようになった。
　戦争終結直後の明治39年の出漁は、とりあえず従来の買魚、名義借りの方法で行われた。翌40年は漁業協約交渉が進行中であったが、仮協約を結び、初めて競売で漁区を租借して出漁した。
　これ以後の露領漁業は、日口両国家間の合意に基づく漁業協約の下で展開したが、最初の数年間はロシア人名義の共同経営、あるいは買魚を名目とした変則的な形の出漁を続けるもの、また日露戦争時以来の密漁者が跡を断たず、その上、一獲千金を狙う多数の一旗組の参入・退出があり、漁業協約締結後数年間の露領漁業は、混乱した流動的状況が続いた。
　明治39年度の出漁をみると、当時カムチャツカや沿海州方面に出漁したほとんど総ての船舶は、函館港を基地としていたが、同年函館港を利用した露領漁業の船舶の動向をみると（表1－47）、5月末から6月初旬にかけて、沿海州北区方面（カムチャツカを含む）には帆船56隻（6671トン）、ニコラエフスク・サハリン方面には、帆船25隻と汽船18隻が出港している。ただしニコラエフスク方面に向かった船舶は、漁業が目的ではなく、ロシア人から鮭鱒を買付け、加工する、いわゆる買魚を目的としていた。

表1－47　明治39年函館港における露領出漁船舶の出入状況
1.出入港船舶数

	沿海州北区方面		ニコラエフスク方面				合計　　尾
	帆船		帆船		汽船		合計　　尾
函館を出港した船舶	56（31）隻	6,671トン	25（15）隻	3,193トン	18隻	5,308トン	99（46）隻
函館に帰港した船舶	43（30）		20（13）		2		65（43）
他港に直行した船舶	13（1）		5（2）		16		34（3）

島村他三郎「露領沿海州視察復命書」により作成
注）船舶数欄中の（　）内は函館在籍船主の船舶数

2.函館帰港船舶積荷

	沿海州北区方面	ニコラエフスク方面	合計
塩鮭　尾	960,063	1,743,985	2,704,048
塩鱒	538,528	102,170	604,698
合計　尾	1,498,591	1,846,155	3,308,746
筋子　個	786	1,103	1,889

　出漁船舶は、漁期終了後の8月から10月初旬に帰国しているが、沿海州北区から帆船43隻（出漁船の76.8パーセント）、ニコラエフスク方面から帆船20隻（同80％）と汽船2隻（同11％）が函館港に帰港した。そして、沿海州北区から149万8591尾（1万9366石）、ニコラエフスク方面から、184万6155尾（2万9704石）の塩蔵鮭鱒を函館港に輸入している。

露領出漁期の光景

　沿海州北区に出漁した船舶は、隻数は多いが、総てが小規模な帆船であった。ニコラエフスク方面では、帆船の数は沿海州北区を下回るものの、汽船が多く、かつ総噸数で沿海州北区を大きく上回り、また鮭鱒輸入量でも、ニコラエフスクが、沿海州北区を凌駕していた（島村他三郎「露領沿海州視察復命書」明治40年、以下「島村復命書」）。
　この出入港調査によれば、この時期の露領漁業は、カムチャツカ方面への転換が進んだとはいえ、いまだニコラエフスク方面からの輸入が大きな比重を占めていたこと、また、漁期終了後、函館に寄港せず直接船主の地元母港、あるいは塩鮭鱒の集散港（新潟、横浜）に直行した船舶（主に汽船）もみられるが、出漁時には、大多数の船舶が函館港から出ているわけで、この時期、すでに函館港は露領漁業の根拠地（策源地）としての地位を確立していたのである。

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