通説編第2巻 第4編 箱館から近代都市函館へ


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第2章 開拓使の設置と函館の町政
第2節 統治機関の創設と通信網の近代化
2 裁判所

司法裁判所の分離独立

函館裁判所の設置

函館裁判所の開庁

裁判所と警察の任務分担

函館裁判所の開庁   P292−P295

 東京出張所は先の決定を翌9日に函館支庁へ通知している。この時司法省との事務折衝は東京出張所が行う旨も告げ、函館支庁の引継計画と刑法課外事課の関係職員名簿を早急に送るようにと指示した。その後、28日には検事事務も引渡すことが達せられた(「開公」5551)。事務折衝を開始した東京出張所は、具体的な事務引渡し交渉のため函館裁判所在勤者の決定を司法省に要求したが、司法省内での人選が進まず、井上好武権少判事(初代函館裁判所長)の函館裁判所在勤が決定したのは3月20日であった(「開公」1172)。井上との交渉の結果、次のようなことが確認された(「開公」5793)。
1 領事等との折衝が多いため外事課が取り扱っていた「中外関渉ノ訴訟」も一括引継ぐこと
2 聴訟断獄とも取調中の分は、概略を記載し関係書類と共に区分して引継ぐこと
3 福山江差両出張所の取調書類は、函館ヘ取寄せて引渡すこと
4 福山江差両出張所へは当分裁判所の支庁は置かないこと、ただし人民が不便を感じるようになった時は設置を考える
5監獄と懲役場は地方庁(函館支庁)が所管すること
6 函館支庁管内は遠隔地も函館裁判所管轄地とすること
7 変死その他の異変には地方庁(函館支庁)が対応吟味の上、刑法の関係する分のみ裁判所へ引渡すこと
8 裁判所費用は司法省が支出すること、尤函館支庁の刑法課の経費からも概算を以て毎年若干差出すこと
9 賊徒探索逮捕等は総て地方庁(函館支庁)の受持ちであること
10 人民警保の事は地方官の権限であるので、邏卒は従前の通り函館支庁が所轄すること
11 裁判所は犯罪が露見した者を地方庁(函館支庁)より受取り処刑申渡す迄が担当で、処刑は勿論、囚獄出入や護送等迄は地方庁の担当となること
12 囚獄へ入れるのが不適当な罪人は、裁判所に監倉(9年3月函館支庁民事課警察係に移管)を設けて留置すること
 4月13日、裁判所の仮庁舎として函館支庁内の刑法課所管部分を使用することが決定(函館支庁の当初計画では旧本陣の使用を検討)、同時に司法省から函館に派遣される職員名簿「権少判事(開拓権幹事相当)井上好武、中解部(開拓中主典相当)松浦正駿、10等出仕白根大道、少解部(開拓権少主典相当)原田忠国(赴任せず)、並木昌伯、高木静三、少属(開拓権少主典相当)佐野綱方、少検事(開拓大主典相当)伊庭貞剛(赴任せず)、12等出仕山形昌雄、13等出仕五島襄(赴任せず)」も示された(「開公」1172)。
 開拓使からは刑法課の中山克忠少主典(司法12等出仕)、河合寛教使掌(司法15等出仕)ら、外事課の税関係杉山孝治大主典(司法8等出仕)、訳語係南川将一10等出仕(司法10等出仕)らが裁判所職員となることとなった。
 かくて5月19日に東京を出帆した井上権少判事一行は21日に函館に着き、24日支庁内の仮庁舎で実務の引継を完了、函館裁判所は開庁した(「開公」5793)。
 この時聴訟断獄の未決分が引継がれた。聴訟は57件(うち外事課が窓口の中外人民関渉の訴訟は30件)で、断獄は17件であった。30件もあった中外人民関渉の訴訟というのは、日本人と外国人とのトラブルで、昆布輸出契約に関する違約訴訟(6件)や商品代金滞納・貸金延滞訴訟(18件)などすべて金銭上のトラブルであった。なお、6月2日には福山出張所の断獄6件、4日には江差出張所の断獄3件が引継がれている(「開公」5793)。またこの日、函館支庁は、刑法課を廃止し刑法課所管の懲役及び囚獄事務を民事課所管に移すこととした。
 なお、この函館裁判所の管轄地域は、開拓使函館支庁管内に限られ、黒田の正院伺書にも「札幌其他ノ治下ニ至ッテハ同省ノ手ヲ煩サスシテ担当イタスヘク」とある通り、札幌その他の地域はこれまで通り開拓使本支庁の刑法課が所管し、「刑法上難決義」は函館裁判所へ問い合わせることとなり、この体制は開拓使が廃止されるまで続いたのである。
 その後、大審院の設置により裁判所体系の整備が進められ、明治9年に函館裁判所の支庁的な裁判所である区裁判所が函館裁判所(この時地方裁判所と改称)の下に設置され(表2−11)、14年10月には函館は控訴裁判所、始審裁判所、治安裁判所の3層構造となる。これらの動きを函館裁判所の名称の改称を軸に表に整理すると表2−12のようになり、地方裁判所を統括する裁判所として設置された函館控訴裁判所の管轄区域を整理すると表2−13となる。
表2−11区裁判所の設置
裁判所名
設置年月日
開庁年月日
所在地
管轄区域
函館区
10.2.19
10.8.22
函館裁判所内 亀田上磯茅部山越の4郡
福山区
9.3.18
9.4.4
福山河原町 津軽福島の2郡(14年に松前郡)
江差区
11.1.7
11.7.5
江差北新町 檜山爾志久遠太櫓瀬棚奥尻の6郡
寿都区
12.11.27
12.12.8
寿都郡中歌村 寿都島牧磯谷歌棄の4郡
明治14年「建使以来建置沿革取調」、函館地方裁判所「沿革誌」より作成
表2−12 函館裁判所の変遷
年月日
事項
7.5.24
開庁(函館支庁内)
8.5.24
函館裁判所福島(8.12宮城に移転)上等裁判所管下に属す
但し 内外人民交渉の訴訟は東京上等裁判所へ控訴
8.9.30
移転(南新町142番地新築)
9.9.13
函館裁判所は函館地方裁判所と改称
14.1.29
所内に検事局設置(14.3.14開局)
14.10.6
函館地方裁判所は函館始審裁判所と改称
同時に函館控訴裁判所(旧上等裁判所)設置
 区裁判所は治安裁判所と改称(15.1.1より施行)
15.1.1
刑法及治罪法施行
19.5.4
函館控訴裁判所を函館控訴院と改称
23.2.10
裁判所構成法公布、始審裁判所は地方裁判所となる
函館地方裁判所「沿革誌」より作成
注 8.5.24太政官布告第92号で東京、大阪、長崎、福島に上等裁判所設置
表2−13 函館控訴裁判所管轄区域表
控訴
始審
治安
管轄区域
道県名
函館控訴裁判所 函館 函館
江差
福山
寿都
亀田、上磯、茅部、山越の4郡
檜山、爾志、久遠、太櫓、瀬棚、奥尻の6郡
松前郡
島牧、寿都、歌棄、磯谷の4郡
北海道
    開拓使札幌本庁管轄地方
開拓使根室支庁管轄地方
弘前 弘前
青森
五所川原
西津軽、中津軽、南津軽の3郡
東津軽、下北の2郡と上北郡の一部
北津軽郡
青森県
  八戸 八戸 三戸郡と上北郡の一部
函館地方裁判所「沿革誌」より作成
注 控訴裁判所の順序は東京、大阪、長崎、函館、名古屋、宮城、広島の順である
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