通説編第2巻 第4編 箱館から近代都市函館へ


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第1章 維新政権成立期の胎動
第2節  箱館戦争
1 旧幕府脱走軍の誕生

江戸城引渡交渉

旧幕府海陸軍の脱走

徳川宗家の処遇

徳川宗家の処遇   P227−P229

 閏4月29日、4月4日の徳川家の存続を認める旨の沙汰書を受けて、田安亀之助(当時6歳)を徳川宗家の後継者とし、早くから勤王の旗印を明確にしていた美作津山藩主松平斉民(11代将軍家斉の第16子)を亀之助後見人とするという朝旨が、このために関東監察使として江戸に出て来た三条実美(議定で行政官輔相)から、江戸城において亀之助の代理人一橋茂栄へ伝えられた(「イギリス外務省文書″日本通信″」国会図書館蔵[マイクロフィルム])。次いで、上野の彰義隊を壊滅させた9日後の5月24日、亀之助後見人松平斉民と田安慶頼へ次のような徳川宗家の具体的な処置内容(「鎮将府日誌」『復古記』)が伝えられた。
(1)徳川亀之助は駿府城主とすること。
(2)石高は70万石とし、所領地は駿河国(約40万石)と遠江国の一部(約18万石)および陸奥国(9月4日に三河国へ変更)の一部(約12万石)とすること。
 なお、同時に旧幕臣の官位は差止められること(「江城日誌」『復古記』)、旗本など万石以下の領地については最寄りの府県支配とすることも達せられた(「毛利元徳家記」『復古記』)。
 直領と旗本領で700万石といわれた所領が10分の1に削られたわけである。家名の存続は確定したが、新しい領知高は、旧幕臣すべてを徳川家臣として維持していくのには絶望的な高でしかなく、まことに厳しい決定であった。
 次いで27日、この決定に追い討ちをかけるように、徳川の禄を離れた人々の一覧表を提出するようにと指示された。これは以前(5月3日)に出された旧幕臣も追々新政府が雇用するという達を受けたものであったが、新政府雇用枠も限られ、且つ多くの徳川の禄を離れざるを得ない者には「二君に仕えず」との意識が充満していた。このため後見人松平確堂らは、6月22日、徳川亀之助名で「禄を離れた旧幕臣が商人、百姓、浪人となって生活できるように」との嘆願書を提出したが、当然のことながら浪人の身分で将来に望みをつなごうとする考え方は否定された。
 また同日、次のような蝦夷地開拓の嘆願書を提出した。

(前略)累世撫育仕候者共ニ付是迄ノ通徳川臣籍ニ加リ罷在度旨決意歎願仕候者多分ニ有之候得共、申聞候通召仕候テハ兼テ申上候如ク扶助行届不申、去迚悉皆朝廷へ御扶助奉願候モ甚以奉恐入候次第ニ付、暇可差遣ト奉存候処、夥多ノ者共四方へ流離仕、遂ニ溝壑ニ転死仕候様相成候テハ如何ニモ不愍ノ至、且ハ御国体ニ奉対候テ奉恐入候儀ト苦心焦慮仕候、依之勘弁仕候処、蝦夷地ノ義ハ此程中迄私家ニテ支配仕来候儀ニ御座候得共、畢竟人口寡少開墾モ行届不申候ニ付、蝦夷地ノ内御預被仰付候様仕度、左候得ハ扶助致シ遣不申候テモ、尚臣籍ニ加リ度申出候者等、彼地へ土著申付荒漠不毛ノ地夫々開拓為仕候ハヽ、併テ山沢河海ノ産物モ次第ニ相開可申、御扶助奉願候人員モ追々減少可仕、左候時ハ皇国へ奉対忠勤仕候一廉ニモ相当、且ハ私家来共生活ノ道モ相立、如何計歟難有仕合可奉存候、既ニ無彊ノ天恩ヲ奉蒙候上猶又右様歎願仕候段、不恭ノ至奉存候得共、前文不得止事情御諒察被下置、願ノ通至仁ノ御沙汰被成下候様幾重ニモ昧死奉懇願候、以上
   六月                  徳川亀之助
                        松平確堂                  (「徳川家達家記」『復古記』)

 つまり徳川家の家臣のままでいたいとするものが多いが、彼らすべてを扶助することが出来ないので、以前幕府が所管していた広大な蝦夷地へ彼らを移し開拓することを許可してもらえば、徳川家も新政府も彼らを扶助する負担が軽くなるので、許可して欲しいというものであった。しかしこの嘆願は許可されなかった。
 そこでとりあえず藩主以下の駿府移住を進めることになり、まず6月24日水戸で謹慎している慶喜を駿府へ移すことを嘆願し許可を得た(「イギリス外務省文書″日本通信″」)。新政府も7月14日には慶喜と亀之助の駿府移転を公告し、その3日後の17日には、「江戸ハ東国第一ノ大鎮、四方輻輳ノ地宜シク親臨以テ其政ヲ視ルベシ、因テ自今江戸ヲ称シテ東京トセン」(「太政官日誌」『維新日誌』)と、江戸を東京と改称して天皇政府の東の拠点とすることを宣言した。徳川家のお膝元「江戸」は、新政府の東京となったのである。
 8月9日、徳川亀之助一行は榎本手配の旧幕府海軍の船に乗って江戸を出発、15日無事駿府城に入った。慶喜はこれ以前に水戸から船で駿河の清水港に入り、7月23日中に駿府城に入っていた。
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